“切る”だけのこと・・・。


最初から、俺は由美は何の繋がりもない。
告白してきた由美を振って、由美から言い出した関係だ。


『まもなく発車します・・・』


ドアが閉まる音がすると、体が再び揺れた。


由美はふら付いたが、また姿勢を取り直して、座席の手すりを掴んだ。




「なんで?あたし嫌だよ・・・」


小さな声はカナリ聞き取りにくい。
いつも大声で話すのに、別れ話を切り出したらこれ。



俺は視線を落として“次の所で帰れ”と、低く、冷たく言い放った。



でも、次の停留所でも由美は降りなかった。
俺はいい加減しびれを切らして、その次の停留所で俺から降りた。

付いてくる由美・・・。


バスの中で大声を出すわけにもいかないから、俺は黙って降りた。



冷房が効いていたバスの中とは違って、外は一段と暑い。
立っているだけでも汗をかきそうだ。



「空・・・あたし別れたくないよ」



由美はしつこいし、面倒くさい女だとは思ってたけど、ここまでしつこいとはな・・・・・・。




「なんで?なんで急にそんなことっ」



「別に急じゃねぇよ。最近考えてた。それに、切るのはお前だけじゃない。他の奴とも全員切るから」



「空可笑しいよ・・・・・・まさか好きな子でもできたの?」




俺はやっと振り返って、由美の目を見た。
すでに零れていた涙の所為で、化粧が崩れて、黒い涙を流していた。




「うん、そうだよ。好きな奴がいるから、もうセフレとかいらねんだ」

俺がそう言うと、たちまち泣き出す由美。
でも、たかが涙で揺るがされる俺じゃない。


「ひっく・・・っどぅせ、春野さんなんでしょ・・・っ!」



由美は涙に邪魔されながらも、言葉を続ける。




「たしっ聞いたんだから・・・・・・・っ空が春野さんと抱き合ってたって!」


あの時、あそこの場所にいたのは、サッカー部の友達だけのはずだったのに、コイツが知ってるってことは、その中の誰かが言ったんだろう。