今にも溢れだしそうな涙。
涙腺が緩んで前がよく見えない。
ただ、がむしゃらに走って辿り着いた場所は―――非常階段だった。
キイッ…と重いドアを開け、手すりにもたれながら座り込む。
『……っ…』
声を一切出さず、静かに涙を流す。
次々、壱吾との思い出が走馬灯のように浮かんできて
ブラウスの袖で拭っても拭っても―――涙が止まらない。
冴えないあたしだけど、何もしなかったわけじゃない。
デートの時に壱吾が可愛いって言ってくれた白色のあの服。
太って着れなくなっちゃったけど…いつかまた着れる日が来ると思ってまだ大事に取ってあるんだよ?
少しでも可愛くなれるように、
壱吾に“可愛い”って言ってもらえるように頑張ってきたつもりだった。
……だけど、冴えないあたしがそんなことしたって無意味だったみたい。