僕のぽっちゃり彼女

「さぁ、こっちを見て。」


千春さんの手が俺の顔に触れた。


そして、ゆっくりとその手に誘導され
俺は千春さんの顔を見た。


千春さんはそっと親指で
俺の頬の涙を拭うと、


「頑張ったね。」


そうニコッと笑うと、
俺にそっとキスをした。




えっ!?


俺は体が固まった。


千春さん・・・?


俺は何が起きているのかわからなかった。


まるで時が止まったかのような時間。


夕日に染められた千春さんの横顔、
俺はただ、千春さんの手を
強く握り返していた。



なんで千春さんが俺にキスしたのかは
わからない。


ただ、今でも憶えてる
千春さんのシャンプーの匂いと
柔らかい唇。



まさか、こんなところで再会するなんて・・・




俺は懐かしさからか、照れくささからか、
恥かしくて顔が熱くなった。



「真菜の友達!?」


「う、うん。」


「そう。」


千春さんはそう答えると、
リビングを出て行った。



千春さん・・・


なんだか少し雰囲気が変わった。
冷たくなったような・・・


そう言えば、あれから宮本先輩とは
どうなったんだろう・・・


宮本先輩は結局プロには行かず
大学で野球をしている。


いい噂は聞かない。
毎日違う女の子と遊んでるとか・・・


俺は千春さんが心配になった。


食事が終わり、俺はまたリビングの
ソファーへと戻った。


「真樹くん、さぁ食後の一服だ。」


お父さんはそう言うと、
また焼菓子を俺に差し出した。


ええっ!!!
まだ食べるの!?


「いや、今はお腹いっぱいなんで(汗)」


「そうかぁ・・・」


お父さんは残念そうに焼菓子引き、
自分で袋を開け食べた。


食べるんや・・・(汗)







「はい、真樹くん。」


真菜ちゃんがコーヒーを入れてきてくれた。


「ありがとう。」


真菜ちゃんはコーヒーを置くと俺の横に座った。


こうして横に座られると、
なんか夫婦みたい。


俺は左腕に真菜ちゃんの
温もりを感じる気がしてうれしくなった。








それにしても、千春さんは
全然リビングに来ないな・・・


「真菜ちゃん、千春さんは
ご飯を食べないの?」


俺はなんだか心配になって
真菜ちゃんに聞いた。


「えっ!? あ、うん。
あんまり夜は食べないよ。
外で食べてくることも多いし。」


「そうなんだ・・・」


俺はリビングのドアを見つめながら、
千春さんのことを思った。


しばらく経ってから俺は
またお手洗いに行くためリビングを出た。


ガチャッ!!


「あっ!! 千春さん?」


俺がリビングを出ると、
千春さんが壁に寄りかかり立っていた。



「どーしたんですか?」


「真樹くん、真菜と付き合ってるの?」


「えっ!? い、いや・・・」


「違うの?」


「は、はい・・・」


千春さんは俺の顔を
不思議そうに覗き込んだ。





「そっか・・・そうよね。
真菜が彼氏なんて・・・」


「えっ!?」


俺は千春さんの言ってる意味が
よくわからない。


「でも、あの子が男の子を
連れてくるなんてびっくりしたわ。」


「なんでですか?」


「あの子は男嫌いなの。
正確に言うと、男恐怖症。」


「男恐怖症!?」


「うん。」


千春さんの口から思わぬことを聞いた俺は
何も言えず立ち尽くしていた。