「沖村さん、あんまり歩いちゃダメよ。まだ治ってないんだから。」
「はーい。」
看護婦さんがやれやれと溜め息を付いて通り過ぎる。
カーディガンを羽織り
あたしは携帯を手に裏庭を目指す。
もちろん、香苗に電話する為に。
「いたたた…。」
歩き過ぎて
まだ痛む体にあたしはベンチへと腰を降ろした。
春の日差しに
キラキラした空気。
たくさん吸い込んで
あたしはふぅと息を吐き出した。
そして携帯を開き
発信履歴から香苗を呼び出す。
震える指が
通話ボタンを押して
あたしは携帯を耳にあてた。
コール音が止まり
電話の向こう側で音がした。
「…もしもし?」
心臓が跳ねる。
遠くの空から
灰色の雲が迫っていた。