シンと静まる廊下に
あたしは公衆電話の受話器を上げた。
ゆっくりと確かめるようにボタンを押す。
長く響くコール音に
返事はなかった。
「出ない…か。」
ポツリと呟いて受話器を元に戻す。
夜の闇に染まる病院は少し不気味で
あたしは足早に自分の病室を目指す。
『そう言えば今日、香苗ちゃんが居たのよ。』
『え?香苗が!?』
お父さんが居なくなった後
お母さんがふいにあたしにそう告げた。
『何だか落ち込んでたから、お家帰ってゆっくりしたらって言ったんだけど…。』
『…そう。』
ベッドへと戻ったあたしは
カーテンを開けて
空に浮かぶ月を見上げて考えた。