いつの間にか
鼻をつく金木犀の香りが消えた頃。
ある事件が起こった。
「喧嘩……しちゃった。」
涙目の香苗があたしを見つめてた。
「え…?」
辺りはうっすらと夕焼けに包まれて
教室に居るクラスメートが慌ただしく帰り支度を始める。
「喧嘩しちゃったの…。」
聞こえてなかったと思ったのか
香苗は再びそう呟いた。
喧嘩?
「そうくん…と?」
セーターの袖を丸めて口にあてた香苗は
小さく二回、首を縦に振った。
驚いた。
喧嘩をしたという事じゃない。
あのそうくんが
香苗に怒ったという事に対して
あたしは心底驚いた。