大好きな人が
あたしの名前を呼ぶ。
その声は
海の音よりも優しくて
もっと呼んで欲しい。
もっとあたしを求めて。
そう心の中で呟いた。
『海音。』
その声に
溺れていたい。
「そろそろ、帰ろうか。」
「……まだ、いいよ。」
あたしの言葉に
優しく手をポンと置いたそうくんは
「また、来よう。」
そう言って笑った。
あたしは一分、一秒たりとも離れたくない。
こんな女、嫌いかな…。
そうくんの背中を見つめたまま
あたしはその後を駆け足追った。
すっかり明るくなった日差しは
あたし達二人を
再び残酷な現実へ引き戻す。
帰り道
そうくんの背中に寄り添って見た桜が
その短い命を終えて
散り果てていた。