「山田 悠(やまだ はるか)のバカやろー!!」



思いっきり、教室の窓から叫んでやった。



涙が溢れないように上を向いて。



ちゃんと、想いが伝わってないのに……



失恋なんて。



初恋だったのに。



悔しくなってもう一度叫んでやろうとしたとき。



「おい、バカはどっちだよ。浜野」



この世で一番愛しいあなたの声がした。


男子にしてはちょっと高めなソプラノ声が好きなんだ。







振り返ると大好きなあなたの姿。



いや、やっぱ嫌い。



だけど、キミのことになるとコントロール出来なくなる気持ちがあなたを好きだと伝えてくる。



溢れ出して止まんない。



「アホ、バカ、何しに来たの?」



泣きそうになって、山田に背を向けて消えそうな声を絞り出す。



「は? 何しにじゃねーだろ?お前が叫び続けたら俺は有名になっちまうだろ」


って方言直ってるし。



「もう、有名じゃん。」



あんたね、自分が気づいてないだけですっごい人気なんだよ。



本っ当にムカつくやつ。






「ははっ…やっぱ、浜野お前はおもしれー」



「は?なにがよ?」



「俺さ、こんなんで有名になったつもりじゃねーから。」



「……」



「俺、テレビ出て海外にもたくさん行って超有名な俳優になんだ」




そう言った山田の目はキラキラしていた。



初めて山田の口から聞いた山田の夢。



すごく魅力的だよ。



でも、それ以上に複雑。


これ以上、有名になったらライバルどんどん増えちゃうよ。



山田がどんどん遠くなっちゃうよ。




やっぱり、あたしあんたのこと一生諦められない気がする。



大好きなんだよ、バーカ。







「つーか、なんで泣いてんの?浜野」



「な、泣いてないし」


言われて初めて気づいた。


「んだよっ!そんなに感動したか?ははっ」



そう言って涙を自分の制服で拭ってくる。


「ちょっと、あんたの制服汚れちゃうよ……」



「いーって。俺の夢最後まで聞いてくれたから。」


そう言って目を細めてニッと笑った。


山田、あんたかっこよすぎだよ。



でも、好きなやつの話だから聞いてんだよ?


あたし、そんなにいいやつじゃないよ?


山田の目に映るものは全部美化されてんの?


それとも、ポジティブすぎるの?



ねぇ、あたしは
あなたの目にどう映っているのですか?






…─────────
──────────────



「浜野 朱里。3年間の片思いに終止符を打ちます!」



その日の昼休み。



可奈(かな)と奈都(なつ)とあたしのいつものメンバーで昼ごはんを食べているなかあたしはこう宣言した。


可奈は、ぽかーんと口を開け。


奈都は「無理でしょ」と冷たく言う。


だぶん、奈都はずっと山田を思っていたことを知ってるからそうなことを言うんだと思う。


可奈は話はだいたい知っているけど高校からの友達なのであまり知らない。



山田の性格も。


今までのことも。



でも、あたしの想いの強さには「すごい」っていつも言っていたから、諦める、と言ったあたしが信じられないみたい。



あたしだって諦めるとか言ってみたけど正直わからない。







今まで、ずっと山田を好きで。


山田しか見ていなかった。


いや、見えていなかったから



山田のいいところはたくさん知っている。



でも、その分悪いことも知っている。


すごく鈍感でアホでバカで人が傷つくこと平気で言っちゃうやつだし。



中学のときは、かなりのヤンキーとつるんでたし。



それでも、好きなんだもん。






ほら、今も無意識に山田を探してしまっている自分がいる。



「…あ。」



楽しそうにサッカーしてるし。



手をあげてパスを待っている山田はすごい真剣だ。



「ぷっ…遊びに真剣になるなんて」



そう言ったあたしに、可奈は



「あれれ〜?諦めるんじゃなかったんですか?」



と茶化してくる。



「う…。」


そうだった、と気まずそうに笑う。



でも、サッカーしている山田かっこいいんだもん。


つい、つい見てしまう。


そんなあたしは、グラウンドにいるたくさんの男子の中から山田を探すのが特技なんだ。







でも、


「もう、見ない!」



諦めるんだ。



そう決意するように言ったあたしに奈都は


「なんで?見てなよ」



と決意を揺るがす一言。


ちょっと〜
奈都さんや。


「誘惑しないでっ」


と、鏡に向かって髪を結び直す。



「別に誘惑とかじゃないけどさ、朱里はそれでいいの?」



「……」



「ねぇ、朱里。もっと向き合ってみたら?ぶつかってみたら?」



「…っぶつかったよ!向き合ったよ!それでも…、それでも……無理だったじゃん」



つい、怒鳴ってしまった。


奈都は悪くないのに。


正しいことを言っているのに。









「ごめん …奈都」



「ううん」



こんなあたしに、奈都は横に首を振った。



そして、優しく話始めた。



「これは、ある人の話。その人はすごく好きな人がいたの。優しくて大人で、素敵な人。」



「…うん」



「でも、その人には婚約者がいた。とってもキレイな人で… 諦めるしかなかった。でも、すごく後悔したの…。ちゃんと、向き合わなかったことを。」



「うん」



ねぇ、奈都。


それって奈都のことだよね?


奈都、すごく悲しそうにでも優しくて愛しいという顔で、笑うんだもん。



バカなあたしでもわかるよ。


後悔しないでって背中押してくれてるんだね。


諦めるなって励ましてくれてるんだよね。



ありがとう。



ありがとう、奈都。