そのあと、大広間に戻って勉強再開。
でも、可奈の頭の中は優でいっぱいだった。
ぼーっとして、シャーペンをクルクル回す可奈に1人の男が話しかけてきた。
「あ、可奈じゃん」
「…ユウ。」
そいつはユウといって、可奈の元カレだった。
「なーにやってんの?勉強しろや。わかんねーの?教えてやろうか?」
なんて、馴れ馴れしいユウに笑顔で答える可奈。
可奈だって、本当はあんまりいい気はしない。
斜め横には優くん。
自分のペースで解いていっていいので、周りには教え合いながら勉強をしている人達はいっぱいいる。
でも、優くんにだけは見られたくなかった。
「休憩してるだけー。だから大丈夫!」
笑ってやんわり断るもののユウは引き下がろうとしない。
「いーじゃん。俺たちの仲じゃん」
って、どういう仲だよ?
と突っ込みたい気持ちを抑えて可奈は
「ごめーん。集中したいからさっ」
また笑ってみせた。
「わかった。じゃあ、10分だけ!」
そう手を合わせるユウ。
全然わかってないじゃん。
さすがに、可奈も顔を歪ませる。
空気読めない男は嫌い。
喉まで出かけた言葉を呑み込みまた断ろうとしたとき。
「嫌がってるのわからない?」
斜め横に座っていた優くんがいつの間にかかばうようにあたしの前に立っていた。
「…優くん。」
意外と大きい背中。
男らしくて、かっこよかった。
ユウは、
「新しい男かよ」
手ぇ早いなー、と言い残すとササッと退散していった。
手が早い…。
優くんはどう思ったんだろう?
軽い女だと思った?
軽蔑した?
幻滅した?
でも、あたしの目の前にいたのは優しい笑みを向ける優くんの姿だった。
「大丈夫?可奈さん」
「あ…、うん」
「よかった、なんかあったらすぐ言いなよ?可奈さん可愛いーからさ。」
そう笑った優くんに可奈は、涙さえ出そうになった。
優しくて、本当のあたしを見てくれる初めての人。
好き、好き、大好き。
こんなにも好きになったのは初めてだった。
「ありがとう」
お礼言うのさえもドキドキした。
「いいえ」
そう言って笑った優くんに、可奈は決めた。
告白するって。
今まで、絶対にうまくいくという保証付きでしか告白なんてしたことがなかった。
でも、可奈は確実に成長していた。
結果なんてどうだっていい。
この思いを優くんに
伝えたい…──────
「んー…、やっと終ったよ〜」
背伸びし、晴れた顔でそう言った朱里に山田も横で背伸びしている。
そんな2人の場所へ、奈都、可奈、優と集まってきた。
今では、いつめん(いつものメンバー)だったりする。
「よーし。風呂でも行くか。」
山田の提案にみんなで頷き、女子は女湯、男子は男湯へと向かった。
「じゃあ、またあとでね!」
「うん、あとで。」
男湯と女湯への分かれ道で、可奈と優くんのやり取りにまるでカップルみたいだと朱里は思った。
それを言うなら、朱里と山田もだ。
「早く上がれよな、浜野」
「うっさいな〜、男子じゃないんだからっ」
まるで、付き合いの長いカップル。
そんな乙女2人を置いて、奈都はさっさっと女湯と大きく書かれているのれんの向こう側に行ってしまっていた。
…────────
─────────────
「くはーっ」
お風呂上がりに、牛乳を一杯。
サイコーです。
腰に手をあてぐびぐびと飲みほした朱里をじーっと見ている山田。
「な、何よ。」
好きな人に見つめられて照れないわけない。
恥ずかしさを隠すようにいい放った朱里。
でも、そんな朱里に飛んできた言葉は
「貧乳だな、お前」
だった。
プチン…
可奈にも奈都にも、嫌な音が聞こえた。
「やーまーだーーー!」
「う、うわ、浜野なんだよ!」
お風呂上がりにも関わらず、朱里と山田は追いかけっこ。
「絶対っ!許さない!!」
「お、落ち着け」
「落ち着いてられないわよー!」
仲がいいのかなんなのか。
「本当のこと言っただけだろー」
「うっさい!大声で言うなー」
ギャーギャー騒ぐ2人を、優と可奈は苦笑い。
奈都なんて無視して部屋に戻っていく。
…───────
───────────────
「もう、許さない」
部屋に戻ってからも朱里は、ずっと唸っている。
相当怒っているらしい。
「ごめんっ」
謝りにきた山田のことも完全無視。
でも、山田も朱里も涙目だ。
「無視すんなって」
「……」
「お前から無視されんの結構つれーし。」
困り果てる山田に、助け船を出したのは意外にも奈都だった。
「山田。」
「?」
コソコソと耳打ちしたかと思うと山田は、部屋から出ていった。
「え?なんて言ったの?奈都」
興味津々の可奈に奈都は、
「まー、見てなって」
と笑った。
意味わかんねーよ。
あんなに怒ることか?
今、奈都に言われ走って購買に向かっている山田。
「購買の隅にあるウサギの人形買ってきなさい。赤と青お揃いよ」
そう言った奈都。
「まじかよー」
超だせーじゃん。
こんなん貰って嬉しいか?
しかも、無駄に高い。
あれこれ文句を言いながらも2つ人形を取る。
いつも言い合いばかりだけど、山田にとって朱里は特別だった。
「こんなんで仲直り出来んなら、安いか」
なんて言って二枚の野口英世を見送った。
2つ並べたウサギの人形を見て、山田はニヤけた。
「浜野喜ぶだろーな」
そんな想いで。
案の定、ウサギの人形を受け取った朱里の目は一気に輝いた。
「嘘!?これくれるの?」
「ああ」
「あたしに?」
「ああ」
ヤッター、とピースする朱里に照れる山田。
うわ、なんかやべー。
ここまで素直に喜んでもらえるとは思ってもいなかったようで照れまくっている。
「あれ?青はなに?」
頭に?を浮かべる朱里に、
「お、…そろだよ」
むにゃむにゃとお揃いだと言う山田は可愛い。
「うっそー!?山田とお揃い?やだー」
なんて言った朱里に、山田が文句を言いながらも幸せそうに笑っていた。
「可愛いー、山田っぽい」
「じゃあ、こっちは浜野」
2人はなんだかんだでお似合いなんだ。
可奈も奈都も、親友の幸せを嬉しそうに眺めていた。
だから、みんな気づかなかったんだ。
山田の本当の気持ちに。
「あ゛ー!!あたしのチョコー!!」
「あ、これ浜野の?貰ってるから。」
あれから、仲直りしたはいいもののギャーギャー言い争う2人。
部屋の中は、はちゃめちゃだ。
「もー、朱里も山田も黙ってよね」
「そうだよ、悠」
可奈と優の声はまるで、2人には届いていないようだ。
「返してー!」
「いーじゃん。ケチケチすんなよ、貧乳」
「んがーっ!まだそれを言うかっ!」
ヒートアップする2人のケンカを止めるにはやっぱり奈都さんしかいないようです。
バシッ!
勢いよく飛んできたパンチは山田にヒット。
隣で朱里が笑っている。
「浜野、てめー。」
「くくっ!黙ってた方が身のためだよ」