あたしが必死で山田を思ってきたのに…山田は他に好きな人が出来た?



なにそれ…



意味わかんないよ。



「意味わかんない…」



「…ごめん、朱里」



「何で…?あたしなんか悪いことした!?ねぇ!」



つい、ヒステリックになるあたしに、低い声が重くのし掛かった。



「朱里は悪くない。好きになってしまった俺が悪いんだ」



そんな言葉聞きたくなかった。



好きになってしまったから悪い?



「全然わかんないよ…あたしのこともう好きじゃないってこと?」



ねぇ、あたしはまた片思いなの…?



人気者になっていく山田のファン達と同じ存在になっちゃうの?



そんなの…嫌だよ。











両思いだった分。



2人一緒にいた分。



苦しくて苦しくて。



胸が痛い。



ねぇ、山田。



あんたを好きになってから、あたしはずっと追いかけてばっかりだよ。



ずっと追いかけて追いかけて。



それで、やっと追いついたのに。



また離れていっちゃうの?


また置いていっちゃうの?











男の子にしては少し高めの、ソプラノ声だったのに。


すっかり、男らしい低くてセクシーな声。



時が経ち。



人は変わり。



気持ちまでもが変わっていく。



だから、あたし以外の人を好きになっちゃったことも全然不思議なことではないんだ。



それでも、あたしたちだけの過去や思い出。



恋人という位置に、同居。


すっかり、油断していたのかもしれないね。



話すことも少なくなっていたのに。



「山田。好きだよ…すごく好き」



だからといって、縛っちゃいけないよね?



「でも、今日で終わり。あたしたちいい友達になれるよね?」



山田 悠が友達なんだぞって、これから自慢してやるんだから。



「これで関係切っちゃうほど、あたしは弱くも脆くもないよ…芸能人が友達なんて素敵だもん。これからもよろしく」



ニッコリ笑って、強がった。



本当はね、


少しでも山田に会えなくなることが


山田との接点がなくなることが


死ぬほど、怖かったんだよ。










「ううー」



「朱里止めてよ、喫茶店で泣くなんてみっともないわ」



泣きじゃくるあたしの頭をポンポンと叩きながら、奈都がため息。



ずっと、泣けなかったのに奈都の顔を見た瞬間ドバッとありとあらゆるものが溢れてきて涙が溢れた。



山田と別れたことを伝えると、奈都はすぐに話を聞いてあげるからと仕事を休んでまで来てくれた。



「あたしね…っ」



「うん」



「まだ好きなの…ひっ」


大好きすぎてこの気持ちのやり場に困っている。



引っ越しの準備を進める度に苦しくなって、上手く準備が進まないし。



まだアパートを探しきれていないため、まだ一緒に住んでいるから山田の帰りが早く、別々寝るときはどうしようもなく切ない。



話し出すと止まらない涙と口。



それでも、奈都は最後までちゃんと聞いてくれた。



「グズ…少しすっきりした」



すっかり、鼻声で答えるあたしに化粧落としを差し出す奈都。



「顔ひどいわ、とりあえず化粧拭き取りなさい」



「あ、ありがとう…」











それから、しばらくすると優くんとお腹が大きな可奈がやってきた。



「や〜ん!もう、朱里も奈都も久しぶり〜」



あか抜けて、すっかり大人っぽくなっているけど中身はまだまだ子供な可奈。



優くんはそんな可奈を、さりげなくサポートしていて、本当に結婚するんだなと感じた。



デキ婚なため式は、子供が産まれてかららしい。



でも、2人とも幸せそうで羨ましいよ。



「久しぶり、朱里ちゃん奈都」



2人はあたしたちの前に腰を下ろした。










2人にも、山田とのことを報告したらすぐに来てくれた。



でも、バカなあたしは、この期に及んでまでも山田もいたらよかったのにって思ってしまっている。



ただの集まりだったら、どんなによかっただろうか。


「朱里元気だしてっ」



「うん、そうだよ」



優しい言葉に溢れそうになる涙を抑えた。



「もう、大丈夫だよ」



そう言って笑って見せると、2人も笑ってくれた。


「よし、じゃあさーうちに来ない?うちで今日は夜まで盛り上がろーよっ」



可奈の提案により、可奈の家に行くことになった。









…──────



か、帰りたい。



「もおー朱里も飲みなよーほらほらほら〜きゃはははっ」



「…あ、う、うん…」


今、流行りのハイボールが並々とグラスに注がれた。


それにしても、奈都…


お酒が入ると、キャラ変しちゃうなんて知らなかったんですけど…



「奈都〜そんな子だったなんて知らなかったわよ〜うう〜お母さん悲しいっ」



そして、可奈…



お前はいつから奈都のお母さんになったわけ!?



「優くん…この2人どうしよう…」



そこまで、飲んでないのに酔っぱらいのサラリーマンみたいにグラスを片手にフラフラ。



首に巻いていたスカーフを頭に巻いて、ヒックヒックしゃっくりしていて



お前らはおやじか!って突っ込んでやりたいわ。



「とりあえず…寝るのを待とう」



「そうだね…」










しばらくすると、2人は大人しく寝息をたてながら寝てしまった。



「ふー疲れたー」



「朱里ちゃんを励まそうとか言いながら一時間でこのさまだもんね、ごめんね?」



優しくそう言う優くん。


あたしは首を横に振った。


「ううん、いいの。奈都の新キャラも新鮮でよかったし、可奈の泣き上戸もなかなかウケた」



やっぱり、2人には敵わないや。



「すごく元気もらえた。たくさん飲まされちゃったけどね」



それもそれで、楽しかったし。



「この2人がいてあたしがいるもん」



ふふ、と笑うあたしに優くんは可奈の頭を撫でながら、言った。



「可奈もいい友達持ったな」











あらま。



「ノロケかな?」



ニヤリと笑いながら、少しからかう。



でも、優くんは笑ったまま


「悠もすごくいい奴なんだ…言わなくても朱里ちゃんはわかってると思うけど」


「…あ、うん」



いきなり、山田のことが出てきて少し動揺する。



そんなあたしを見ながら、続ける優くん。



「だから、今回の別れも理由があってのことで」



「うん、理由は聞いてるの」



山田を庇うような言い方が少し気に入らなかった。



別に、山田を嫌いなわけじゃない。



でも、なにも知らないくせに余計なこといってほしくない。



あたしの辛さも知らないで……



「好きな人が出来た、だろ?」



「…えっ?」



なんで知ってるの…?



知ってるうえで山田を庇うような言い方を…?