でも、
「もう、見ない!」
諦めるんだ。
そう決意するように言ったあたしに奈都は
「なんで?見てなよ」
と決意を揺るがす一言。
ちょっと〜
奈都さんや。
「誘惑しないでっ」
と、鏡に向かって髪を結び直す。
「別に誘惑とかじゃないけどさ、朱里はそれでいいの?」
「……」
「ねぇ、朱里。もっと向き合ってみたら?ぶつかってみたら?」
「…っぶつかったよ!向き合ったよ!それでも…、それでも……無理だったじゃん」
つい、怒鳴ってしまった。
奈都は悪くないのに。
正しいことを言っているのに。
「ごめん …奈都」
「ううん」
こんなあたしに、奈都は横に首を振った。
そして、優しく話始めた。
「これは、ある人の話。その人はすごく好きな人がいたの。優しくて大人で、素敵な人。」
「…うん」
「でも、その人には婚約者がいた。とってもキレイな人で… 諦めるしかなかった。でも、すごく後悔したの…。ちゃんと、向き合わなかったことを。」
「うん」
ねぇ、奈都。
それって奈都のことだよね?
奈都、すごく悲しそうにでも優しくて愛しいという顔で、笑うんだもん。
バカなあたしでもわかるよ。
後悔しないでって背中押してくれてるんだね。
諦めるなって励ましてくれてるんだよね。
ありがとう。
ありがとう、奈都。
「朱里…」
奈都は、あたしの目を見ると強く優しくこう言った。
「両想いだけが恋じゃないからね」
って。
苦しくて、切なくて。
泣きたくなることもあると思う。
でも、奈都。
もう諦めるなんて言わないよ。
あたし、精一杯片想いします。
もう、逃げないからね。
全力投球で行くから。
覚悟してよね、山田。
あたしは、もう一度グラウンドの山田目をやった。
今日は待ちに待ったわくわくの合宿。
「合宿だあー!!」
「いえーい!」
可奈と朱里が騒いでいると奈都は迷惑そうな目で見て毒舌炸裂。
「小学生みたい、恥ずかしいから止めてよね」
うわ〜きっつい一言。
合宿前なのにテンション下がりますよ、奈都さん。
そんな奈都は、ほっといて。
「やっぱ、合宿はテンションあがるよね〜」
「うんうん」
可奈と盛り上がっております。
そこに、一番うるさい人登場。
「いえーい!!合宿だー」
って同じこと言ってるし。
そして、こいつにも奈都さんの毒舌炸裂。
「山田うっさいわ」
「すんません…」
ぷぷっ
怒られてやんの。
「なに、笑ってんだよ?浜野」
「別に〜」
「お前もさっき怒られてただろーが」
ギクッ!
痛いとこつかれた。
「うっさいな〜」
「一番うっさいのは、浜野だろ?」
と、口喧嘩はバスの中にまでも及び
そのくせ、隣通し。
山田の窓側には、佐東 優(さとう すぐる)くん。
山田と大の仲良しなんだ。
で、あたしの窓側に奈都。
あたしと向き合って、可奈という感じ。
そして、お決まりのように通路を挟んで口喧嘩を始めるあたしと山田に先生から雷が落ちた。
すかさず、山田が
「浜野のせいだからな」
「山田でしょ」
と、小さな声で口喧嘩。
それを、奈都が仲いいのか悪いのかわからんわ、と呆れ気味で見て。
可奈は爆笑。
…─────────
────────────────
山田と朱里の喧嘩はずっと続いていたがなんだかんだで合宿先へ着いた。
「ごめんねっ…うるさかったでしょう?」
可奈がバスからおりてすぐに声をかけたのは山田と仲のいい優くん。
かっこよくて、優しくて、頭のいい優くん。
結構タイプだったりして。
「ううん、楽しかったよ」
と笑った優くんに胸キュン。
朱里と奈都は優くんと同じ中学だったんだよね。
可奈には、優くんじゃなくて山田を好きになった朱里がよくわからなかった。
「あははっ…優くん優しいんだね」
「そんなことないよ。それより可奈さん奈都たちのとこ行かなくていいの?」
え……?
奈都のこと呼び捨てなの…?
「あ、う、うん…そろそろ行かなきゃかも。じゃあ、あとでね!」
気になったはものの、中学一緒だったんだもん。
普通だよね?
って自分に言い聞かせてその場をあとにした。
でも…
気になる〜!
横で荷物整理している奈都をチラ見。
「何?可奈」
「え?あ、ううん。なんでもないよ」
なんて言ったけど
嘘、本当は聞きたいことばかりだ。
「可奈?なに難しい顔しているの?なにかあるんならはっきり言ったほうが楽になるわよ」
ウジウジしてはっきりしない可奈に奈都は優しい。
こんな奈都が、大好きなんだ。
だから、ちゃんと言わなきゃ!
「う、うん。あのね…奈都と優くんってどういう関係?」
気になっていたことが言えてすっきりした可奈の目の前にはポカンとする奈都。
あれ……?
「奈、都…?」
どうかしたの?と首を傾げる可奈に奈都はいきなり笑いだした。
「え?え?奈都?」
壊れちゃった?
訳のわからない奈都に戸惑っていると奈都は途切れ途切れにこう言った。
「可奈ってば…ぷははっ…可愛すぎるっ!」
かぁぁ…
うわ、なんか恥ずかしい。
「あたしと優は、幼なじみ。だから安心しなさい」
幼なじみ。
その言葉にホッとしたと同時に少し嫉妬した。
そのあと、集合がかかり大広間へと向かった。
そして、勉強合宿の幕開け。
予想以上にキツイ勉強合宿に昼食ごろはみんなぐったり。
「あ〜もうやってらんない」
「だよな〜」
と山田と朱里は机にダリンとしていた。
でも、可奈はその横で笑っている優くんに釘付け。
かっこいい〜。
今まで、勉強をしていたからか、黒ぶちメガネをかけている。
やばい、鼻血ブーです。
「あ、可奈さん。」
可奈に気づいた優くんが声をかけてきた。
うわわ。
こっちにやって来た優くんに挙動不審になる可奈。
「大変だったね」
そう苦笑する優くんに返事するのも忘れ、見とれてしまっていた。
「可奈さん?」
「…え?あ、うん。大変だったよね〜」