「唯璃。お前、何の話かなんとなく分かってるだろ?」
さっきまで、笑いを堪えていた翔先生が不意に話を戻した。
そして、前みたいに『唯璃』と呼んでることに気付き、私は少し驚きながらもゆっくりと頷いた。
「なんとなく、なら…。」
そう返すと、翔先生は『そうか…。』と小さく呟いた。
────・・
一瞬の沈黙が流れて、翔先生が口を開いた。
「唯璃はもう、陸上に関わる気はないのか?」
先生は、はっきりと。
───『陸上』と言った。
その言葉に、自分の心臓がドクンと大きく鳴ったことに気付く。
まだ…、
私は動揺してしまうんだね。
「…どんな形でもいい。関わる気は唯璃の中にあるか?」
翔先生は真っすぐ私を見つめたまま、そう付け足した。
表情は、とても真剣で怖そうな感じもするのに。
何故か、声だけは優しかった。
私は……、
「……私、は…。今の私じゃ…。陸上に…、関わることはできないです。」
大切だから。
大好きだから。
今は、近づくことをしない。
───私は、そう決めたんだ。
「…そう、か…。」
翔先生はそう言うとふっと小さく笑って、言葉を続けた。
「…理由が前と、少し変わったみたいだな。」
───前…か。
確かに、前と少しだけ変わった。
区切りをつけたくなったんだ。
私のためだけど。
言い訳に聞こえてしまうけど。
「…本当の理由を…、皆に言わなきゃいけない気がしてきて…。」
あの時は、言えなかった。
皆のためだと思って。
でも、それは自分のためだったと気付いたから……。
言わなきゃいけないと思った。