「…唯璃…、その…。」
颯は何か言いたそうに見てきて、私が首を傾げると、ふぅ…とため息をついて首を振った。
「…いや、なんでもない。
じゃあ、俺はこれで。」
そう言い残して、結局何も言わずに教室を出ていった。
その様子に、私は颯が言わんとすることがなんとなく分かって少し瞼を伏せた。
颯……、
悪いけど、私は決めたんだ。
颯が言おうとしていたことは、きっと私はできない。
「…唯璃…。」
「ん…?」
ひなちゃんに名前を呼ばれ顔を上げた。
「……今日は…、忙しいね。」
ひなちゃんは普段は見せないような優しい表情でそう言い、私の頭をわしゃっと撫でて自分の席に戻っていった。
「……うん。」
ひなちゃんがいなくなった後、撫でられた頭に触れて、そう呟いた。
それからすぐ先生が教室にきて、いつもどおりの授業が始まった。
でも、なんとなく授業に集中できないまま時間だけが過ぎていく。
あの日からたまに、心に小さな穴が開いたような気分になる。
前より感じなくなったけど、その気分の原因を自分は分かっている気がした。
「…だめだなぁ…、私。」
「どうかした、唯璃ちゃん?」
思わず、こぼしていた独り言に隣の席の子が不思議そうに尋ねてきた。
「あ…、なんでもないよ?」
「そう?」
「うん!」
そう誤魔化して、そろそろ授業の終わりを知らせる時計を見上げた。
次は、昼休み…────