着飾るだけの人形なんて居る価値がないのかも知れない。
髪も綺麗に巻いて、ばっちりメイクにほんのりと香る香水を吹き掛ける。
これがあたし…
アユ。
実際はと言うと作り物のあたし。アンを馬鹿って思うよりも、ここまで着飾るあたしのほうが馬鹿なのかも知れない。
でもそうする自分がなんだか落ち着く。
スクール鞄を抱え、その中に化粧ポーチと携帯を突っ込み、あたしは階段を掛け降りた。
降りるとリビングから明るいアンの声が聞こえる。
その甘ったるい声を耳にしながらあたしは玄関に置いてあるローファーに足を滑り込ませた。
ガチャ…と扉を開けると、その前方に何回か見た事のあるアンの男。
男はアンじゃなかった所為か顔を歪めた。そんな男の横を過ぎ去るあたしに、
Γアユちゃん、おはよ」
とりあえず男はあたしにまで声を掛ける。
そんな男の声を無視して行くあたしの背後から扉の開く音が聞こえ、
Γごめんねぇ、待ったぁ?」
呑気なアンの声が響いた。