エレベーターの横にある階段をあたしは一気に掛け降りた。

だけど所詮あたしの走る速度。そんなあたしの速度に追い付いたのは大和の足だった。


Γアユっ…」


階段を降りてすぐ息を切らせた大和があたしの腕を掴む。その瞬間、大和の温もりが伝わる。


Γ何？」


思わず素っ気なく返した自分にまた呆れてしまう。あの頃と変わってないな、あたし…


Γ何って、用があるから来たんだろ？」

Γ特にない。ただ、ちょっと来てみただけ」

Γつか、アユに限ってそれはねぇな」

Γ何で？」

Γ特に用ねぇとか、ただ来ただけとかアユに限って有り得るわけねぇだろ。そんな事で一度も俺の前に現れた事なんてねぇもんな」


“今までずっと…”


そう付け加えるかの様に呟いた大和の声は、はっきし言って聞き取りにくかった。

大和は困った顔をし、小さくため息を吐き捨てる。そしてクシャっと髪を掻き、


Γとりあえず、入ろ」


そう言って、大和はあたしの腕を掴んだまま足を進ませた。

なんでだろう。さっき大和が女の人と笑いながら話してたのに反抗する言葉さえ出てこない。


ま、大和は昔っからモテてた。だからそれは今でも全然変わってないって分かってんだけど、さっきの光景が異様にあたしの胸を痛めつけた。


そう思うのはきっと大和を好きな証拠なんだと思う。じゃなきゃ、何も思わないし何も感じない…