「開いてますよ。」

ドア越しに聞こえる教授の声を聞き俺はゆっくりドアを開けた。

「失礼します。」

壁には本が天井までギッシリと積まれている。

何が入っているのか分からない段ボールが床を占拠して、まるで倉庫のような部屋だった。

「ごちゃごちゃしていてすみません。おや、君は確か神名くんでしたね。」

「はい。『日本民俗』を取ってます。実はお話がありまして。」

無精髭を生やし眼鏡を掛けている教授は、椅子に深く腰掛けて俺をじっと見つめている。

「単位のことですか?」

「はい。」

「確かに今のままでは難しいですね。」

「ですよね。」

「君は、民俗学というのに興味は無いみたいだね。」

「はい。すいません。」

「では、いくつか質問させてもらっていいかな?」

ここで、俺の選択肢はない。

教授の質問を受け入れるしかない。

「君は苗字について考えることはあるかい? 約20年『神名』と言う苗字で生きてきてさ。」

「いえ、全く無いですけど。」

「じゃあ、質問をかえよう。苗字を名乗るようになったのはいつ?」