ようやく痛みから解放されたらしいアウルにサレンスが話しかける。

「アウル君、残念だけど、私には姉も妹もいないんだ。いるとしたら、口やかましい弟分かな」
 
 と言いながら、サレンスは隣のレジィを前に押し出す。

「なんですか、口やかましいって。それは、サレンス様が……」

 そこまでいつもの調子で言いかけて、はっとレジィは口をつぐんで態度を改める。

「失礼しました。僕はレジィです。サレンス様の従者をしています。よろしくお願いします」

 白銀の頭を下げた少年に、サハナが手を打ち鳴らす。

「あっ、ひょっとして君が、あの時の?」
「あの時って?」
「昨日の夜、サレンスさんを探してたでしょう? 声が聞こえてたわ」
「はい。あっ、なるほど」

 隣のサレンスを横目で見上げる。

「昨日の夜のいつの間にかいなくなったと思ったら、女の子をたぶらかしてたんですね」
「たぶらかしていたとは人聞きが悪いな」
「でも、サハナさんとずいぶん打ち解けているじゃないですか」
「少し話をしただけだ」

 苦笑しつつ言うサレンスだが、若くまっすぐなアウルにはその辺りの機微はわからない。彼を責めるように言う。

「やっぱり、サハナをたぶらかしたんだな」

 まっすぐサレンスを睨むアウルの漆黒の瞳の奥に朱の輝きが浮かび始めていた。
 風もないのに髪が逆立ち始める。

「ん?」

 森の民の若者の異変に気づいたか、サレンスが怪訝げに片眉を上げた。
 あわててサハナが口を挟む。

「ちょっとアウル、わたしはたぶらかされてなんていないわよっ! サレンスさんはとっても素敵だから……」

 と、そこまで言って自分の紅くなった両頬を恥らうように両手で覆い、はにかむような上目遣いでサレンスを見上げる。

 アウルの光をすべて吸い込んでしまいそうな漆黒の瞳とはまた違い、透明感のある黒。光の加減で茶色にも見える美しい瞳。
 
 それに銀髪の青年は優しげな笑みを返す。
 すでに二人の世界である。
 アウルの異変は収まり、ただ歯噛みするしかない。
 しかし、レジィはすでにこの手のことには慣れてた。