建物の中に入ろうとしない雪狼のセツキを外に残して、グレードとバジルは小さな少年を間に挟むようにして、謁見の間に入る。
 足先が埋もれてしまうような柔らかな真紅の絨毯が敷かれ、等間隔に立つ精緻な彫刻が施された円柱は優美な曲線を描き、壮麗なフレスコ画が描かれた高い天蓋を支えている。

 王宮の外のドラゴンの被害などまるでなかったような贅沢なしつらえである。
 広い大広間の奥にはひときわ高い段が設けられ、そこにはどっしりとした豪華な椅子が据えられている。いわゆる王座であろう。その後の壁にはめ込まれた色硝子が王家の紋章である獅子を象っていた。

 少年はじっと前を向いたまま何事かを考え込んでいるようではあったが、謁見の間に入ると辺りを見回した。
 サレンスを探しているのだろう。

 すでに各地より集められた戦士たちのほとんどが集結しているが、少年の探している人物の姿は見当たらない。

「やっぱりいないし」

 愚痴るように言うレジィだが、その声音はどこか心細げだ。少年の白銀の頭をバジルが大きな手でくしゃりとかき混ぜる。

「代わりに聞いていてやればいいさ」
「はい、そうですね」

 バジルを見上げて素直に返事をするレジィには幾分、本来の明るい表情が戻ってきているようだった。
 少し安心しながらもグレードはバジルに釘を刺すのを忘れない。すでに習い性である。

「バジルさんにしては珍しく良いことを言いますね」
「珍しくってなんだ、珍しくって」
「そのまんまの意味です」

 二人の間で、少年がくすりと笑った。