「私の大学の後輩で、医学部の3年生よ」
裕美さんが説明をいれる。
さすが製薬会社の一人娘。グループも跡継ぎ教育に熱心ってわけか。
「龍くん」
・・・あの声が、耳に入ってくる。
思い出したくない。
仕事中だ!
無理やり俺は現実にもどろうとする。でも、声はなかなか耳からはなれなかった。
「リュウくん?
どうしたの?」
ハッと我にかえったのは、裕美さんが俺を呼んだ声だった。
「あ、ごめんなさい。
医学部の学生さんですか。すごいですね。将来は医師を目指しているんですか?」
・・一緒だ。
医学部ということが。
ただそれだけのはずだった。
頭から消えかけていた記憶が、脳を支配し始める。
思い出せば思い出すほど、考えるほど、自分がつらくなるのはわかっていた。