続・彼女が愛した温もり



『で、買ってしまった‥これ』
ベビー服やおもちゃを見せられた。

『ねぇ、もしかして喜んでくれてる?』

照れたように頭を掻く姿には嫌がってる様子は全くない。

『だって俺言っただろ?
子供欲しいって。
プロポーズした時、結婚して子供つくろうって。
まぁ順番間違えたけどな』

順番か‥

『ねぇ一つ聞いていい?』

『ん?』

『私を抱いたとき避妊しなかったでしょ?
それは欲?それとも子供を望んでくれた?』


『んー‥そうだなぁ。
どっちもかな。
欲もあったし、子供も出来たら嬉しいって思ったな』

ベビー服を持ちながらコーキは笑って言った。




『てかさ‥ベビー服全部男の子用だね』

五枚ある服は全て青。


『あぁー何か母さんが俺の子供は息子だって。』

『えー‥女の子っていう可能性は無し?』

『俺が女の子の父親って有り得ないらしいよ』

『ふふ‥』
何だか綾乃さんの言葉が納得出来て笑えた。

『カレンはどっちがいい?』

『うーん‥でも、女の子だったらお飯事したいな』

『お飯事かーなるほどな』

しかし、もし本当に女の子だったら服買い直しだな‥

『コーキはどっちがいいの?』

『んー‥そうだな‥
どちらかっていうと女の子が欲しいな』

『うわ‥コーキ娘出来たら親バカ凄そう‥
私、男の子がいいや』

『安心しろ
男の子でも親バカ間違いなしだ』
笑いながらコーキが言った。




『ねぇ‥』

『ん?』
どことなく嬉しそうな顔に胸がキュンとなった。
なーんて‥乙女な気持ちが生まれる。


『大好き‥本当に本当に大好き‥』
不意打ち並みにいきなり抱きついた私を受け止めてくれた。

好きが溢れて‥どうしようもないくらい好き。

だけど言葉に出来ない。


『俺も好き』
耳に囁かれる言葉は何千回、何万回言われたって聞き足りないよ。


女なんか嫌だったの。
化粧しなきゃいけないし、生理だってある。


でも、でも‥

『幸せ‥だな私』
って思うの。

好きな大好きな人の赤ちゃん授かれるなんて奇跡だよね、本当に。

自分の赤ちゃんだから可愛いってのはある。
けど、好きじゃない人との赤ちゃんだったら正直愛しさが半減してしまう‥

けど、コーキとの赤ちゃんだから可愛いの、愛しいの。




この良いムードを壊すように‥


♪♪♪~

携帯が鳴る。

『もしもし‥』

『あのね、杏里ちゃん陣痛きたらしいから病院向かうわよ』

『え?産まれるの?』

『そうみたい、予定日から三日遅れてるみたいだし
間違いないみたいよ』

『そうなんだ‥』

『二人でマンションの外来なさい、車停めてあるから』

『はーい‥』

杏里、赤ちゃん‥産まれるんだ‥

『杏里陣痛きたって、一緒に来てくれる?』

『ん、行くか』

下に降りると手を振るママがいた。

『娘をよろしくお願いします』
いつになく照れ臭そうに言ったママが可愛かった。




『性別は?』

後部座席から少し乗り出してママに聞いた。


『女の子だって』

『そっかー』

女の子かぁ‥
パパさんメロメロだろうなぁ。

微笑ましい光景を思い浮かべ
自然に顔がにやけた。


『二人はどっちがいいのよ?』

『私は男の子』

『で、俺が女の子ですね』

はっきり別れた意見にママが小さく笑った。

『んー‥私はあなたたちの子供は男の子だと思うわ』

『いや、あのさ綾乃さんもそう思うらしくてさ‥』

『蓮も喜ぶわね、赤ちゃん』

パパ‥
もし私が女の子を産んだら可愛がってもらえないかもしれない。

かといって男の子を産んだら唯さんの事もあってなんかひける‥

うーん‥

でも、ママが喜んでくれてるから良いや。



『さ、着いたわよ~』

車から降りた先に見えたのは
個人病院。

でも、ベテランそうな人が多くて良いなぁと思った。


『あー香織!』

『香世!』
『おばさん!』

コーキの腕を引っ張りながらおばさんに近づいた。


『あら、ちょっとー
後ろのイケメンさん誰?
って言うまでもなくカレンの恋人ね』

香世おばさんの楽しそうに茶化す姿に恥ずかしくなる。

少し老けたけど、相変わらず綺麗なおばさん。

ママと姉妹なのに性格がまるで違った。

いつも表情が硬くて話しかけずらいママと
表情が軟らかく明るいおばさん。

おばさんは驚くほど人付き合いが上手い。
個人的に好きだったけど、昔は杏里との折り合いが悪くてあまり遊びには行かなかった。




『香世聞いて~』
ママが嬉しそうにおばさんの肩を叩いた。

『なになに~?』
相変わらずノリが軽い‥

『私もついにおばあちゃんになるの♪』

『え‥えぇ!
って事は‥カレンが妊娠?』

『そうなのそうなの』

『あらま~
カレンとイケメンさんもヤる事はヤってるのね』

『ねー』

病院でこんな事を言うのはどんなんだろう。

『恥ずかしいよね』と振り返ると
照れたように頭を掻くコーキがいた。

『おめでとう』
おばさんが私に近づき手を握った。

『ありがとう』
手を握りかえすとおばさんが優しく笑ってくれた。

『性別はどちらかしらね』
おばさんが嬉しそうに聞いた。

いや‥まだ妊娠初期だし‥早いっていうか‥

『男の子よ男の子』
ママが割って入り得意気に言った。

綾乃さんにしてもママにしてもその自信はどこから来るのだろう。



『イケメンさんはどう思うの?』

『イケメンさんって‥いや俺も男の子のような気がして』

『ちょっと‥みんなして、なんで男の子って思うの?』

『それは俺の家に関係有りだな』

『え?なになに?』
おばさんが興味津々に問いただした。


『いやー‥俺の実家
昔から女の子に恵まれなくて
もうずっと新生児は男の子ばっかりなんですよ、不思議な事に。
だから、兄貴に娘が生まれた時は大騒ぎでしたね
もう大喜びで、特に母親が。』

『あらー‥なるほどねー』

みんなが頷くと杏里が分娩室へと移動しようとしていた。

『分娩室に入ったら早いですからね』

杏里が汗びっしょりで顔を歪めて苦しんでいる。

『もぉ‥やだぁ‥何でこんな小さな穴からぁ‥』

そんな杏里におばさんはとんでもない事を言った。

『杏里、よーく聞きなさい
赤ちゃんは入ったところから出るのよ』


入った?挿った?
もはや下ネタにしか聞こえなくて必死で笑いを堪えた。

『おばさん‥下ネタみたいな事言わないでよ‥』

『あらー正真正銘下ネタよ~』

この人には勝てない‥絶対に。

『だってイケメンさんもカレンに入れたんですものねー』

いや、勝ってはいけないと思う。



『入れた‥まー‥うん』

いやいや‥認めるなって。
頭を掻いて照れるコーキに笑えた。



『しかし、カレンちゃんもママになるのねー』
おばさんが杏里に付き添いコーキ・ママ・自分の三人だけになった。


『う、うん‥ママだね‥』
照れくさい‥なんか。

ふふっと笑ってママはおばさんたちの方へ歩いた。

二人きり‥
ますます照れくさい‥。


『なぁカレン?』

『ん?』

『堕胎‥とか考えなかったのか?』
横目で私を見てコーキが言った。

堕胎か‥


『全然っ考えなかったな~
出来た時産むしか選択肢になかったし
私さ、これでもコーキに捨てられる覚悟したんだよ?』
本当にね、覚悟したんだよ。


『捨てないよ』

『うん、捨てられっら困るよ』
やっぱり子供にはパパとママがいるべきだと思う。

理由があるにせよ、
いつか子供は気づくんだから。
どうして‥自分にはパパ(ママ)がいないんだろう?とかね。


だから嬉しいんだ。
今自分のお腹で生きている赤ちゃんにはパパがいる、ママがいる。

優しくて温かいパパが君にはいるよ。
だから安心して生まれておいで。
性別は分からないけどパパはどっちでも親バカになる自信があるらしいよ。

早く、会いたいな‥。