『しかし、私もついにおばあちゃんねー』
車を運転するママが嬉しそうに言った。
良かったね‥
みんな喜んでくれてるよ。
お腹に触れて目を閉じた。
私には選択肢なんて一つしかない。
産む。ただそれだけ。
さっきママが言った。
『好きな人と愛し愛されるのは奇跡
そして二人の愛の結晶が出来るのは
もっと奇跡なのよ』と。
若いママだけど、頑張るから‥私‥
だから、ちゃんと伝えなきゃいけない人がいる。
少しの不安を抱えながら
震えた手でメールを打った。
『会いたい。大切な話があるの、今マンション向かってる』
少し遅れて返ってきた返事は
『分かった、いま帰る』
真っ昼間にお仕事早退させてごめんね‥
『頑張ってきなさい
もし捨てられたらママが養ってあげる』
笑って言われた言葉にありがとうと小さく呟きマンションの入り口に立つ。
ママは近くのカフェへと車を走らせた。
もう季節は3月を迎えた。
寒さも和らぎ春が来ようとしている。
緊張で肩が震えアスファルトに膝を抱えしゃがんだ。
怖い‥
何だか怖い‥
目から涙が溢れた。
『カレン、どうした?』
髪に触れるその声はやっぱり
『コーキ‥ってあれ髪‥』
『あぁ、兄貴と愛衣とトランプ勝負で負けてさ、罰ゲームでこの通り。』
長さは相変わらずだけど色が違う。
黒髪が茶髪になっている。
『久しぶりだな、元気だった?
で、何で泣いてる?』
『怖い‥私捨てられる‥』
頭を傾げコーキは状況が理解出来ていない様子。
『とりあえず部屋行こう』
体を支えられ部屋に入った。
陽にあたり光る茶髪かを見ながらまた涙が溢れる。
『で、捨てられるってのはどうした?』
ソファーで身を寄せ合う。
『絶対絶対絶対捨てないなら話す‥』
我ながら面倒くさい女だと思った。
『ん。じゃあ話して』
髪を撫でられ安心し話そうと決意した。
『コーキね、パパになるよ』
妊娠って言いたくなくて遠回しに言った。
『パパって、俺が?』
『うん‥』
『やっぱり本当だったのか』
いきなり私から離れ立ち上がった。
何だろう‥この展開‥
『昨日さ母親から電話あって
“あなたも父親になるんだからしっかりしなさい”って言われてさ』
綾乃さん‥
どうか私の緊張を返してほしい‥
『で、買ってしまった‥これ』
ベビー服やおもちゃを見せられた。
『ねぇ、もしかして喜んでくれてる?』
照れたように頭を掻く姿には嫌がってる様子は全くない。
『だって俺言っただろ?
子供欲しいって。
プロポーズした時、結婚して子供つくろうって。
まぁ順番間違えたけどな』
順番か‥
『ねぇ一つ聞いていい?』
『ん?』
『私を抱いたとき避妊しなかったでしょ?
それは欲?それとも子供を望んでくれた?』
『んー‥そうだなぁ。
どっちもかな。
欲もあったし、子供も出来たら嬉しいって思ったな』
ベビー服を持ちながらコーキは笑って言った。
『てかさ‥ベビー服全部男の子用だね』
五枚ある服は全て青。
『あぁー何か母さんが俺の子供は息子だって。』
『えー‥女の子っていう可能性は無し?』
『俺が女の子の父親って有り得ないらしいよ』
『ふふ‥』
何だか綾乃さんの言葉が納得出来て笑えた。
『カレンはどっちがいい?』
『うーん‥でも、女の子だったらお飯事したいな』
『お飯事かーなるほどな』
しかし、もし本当に女の子だったら服買い直しだな‥
『コーキはどっちがいいの?』
『んー‥そうだな‥
どちらかっていうと女の子が欲しいな』
『うわ‥コーキ娘出来たら親バカ凄そう‥
私、男の子がいいや』
『安心しろ
男の子でも親バカ間違いなしだ』
笑いながらコーキが言った。
『ねぇ‥』
『ん?』
どことなく嬉しそうな顔に胸がキュンとなった。
なーんて‥乙女な気持ちが生まれる。
『大好き‥本当に本当に大好き‥』
不意打ち並みにいきなり抱きついた私を受け止めてくれた。
好きが溢れて‥どうしようもないくらい好き。
だけど言葉に出来ない。
『俺も好き』
耳に囁かれる言葉は何千回、何万回言われたって聞き足りないよ。
女なんか嫌だったの。
化粧しなきゃいけないし、生理だってある。
でも、でも‥
『幸せ‥だな私』
って思うの。
好きな大好きな人の赤ちゃん授かれるなんて奇跡だよね、本当に。
自分の赤ちゃんだから可愛いってのはある。
けど、好きじゃない人との赤ちゃんだったら正直愛しさが半減してしまう‥
けど、コーキとの赤ちゃんだから可愛いの、愛しいの。
この良いムードを壊すように‥
♪♪♪~
携帯が鳴る。
『もしもし‥』
『あのね、杏里ちゃん陣痛きたらしいから病院向かうわよ』
『え?産まれるの?』
『そうみたい、予定日から三日遅れてるみたいだし
間違いないみたいよ』
『そうなんだ‥』
『二人でマンションの外来なさい、車停めてあるから』
『はーい‥』
杏里、赤ちゃん‥産まれるんだ‥
『杏里陣痛きたって、一緒に来てくれる?』
『ん、行くか』
下に降りると手を振るママがいた。
『娘をよろしくお願いします』
いつになく照れ臭そうに言ったママが可愛かった。
『性別は?』
後部座席から少し乗り出してママに聞いた。
『女の子だって』
『そっかー』
女の子かぁ‥
パパさんメロメロだろうなぁ。
微笑ましい光景を思い浮かべ
自然に顔がにやけた。
『二人はどっちがいいのよ?』
『私は男の子』
『で、俺が女の子ですね』
はっきり別れた意見にママが小さく笑った。
『んー‥私はあなたたちの子供は男の子だと思うわ』
『いや、あのさ綾乃さんもそう思うらしくてさ‥』
『蓮も喜ぶわね、赤ちゃん』
パパ‥
もし私が女の子を産んだら可愛がってもらえないかもしれない。
かといって男の子を産んだら唯さんの事もあってなんかひける‥
うーん‥
でも、ママが喜んでくれてるから良いや。