続・彼女が愛した温もり




綾乃さんと別れ
家についたらベッドに寝転んだ。


体が怠い‥


『明日、病院行くから着いてきて』
とママに簡単にメールを送り目を閉じた。


携帯が鳴ったような‥

まぁいいか‥



押し寄せる眠気に負けた。



『ふふーん、ふーん♪』
どこかからの鼻歌に目を覚ました。

いま実質的に一人だよね‥

でも、この声
『ママ‥』

『あ、起きた?』
呑気に鼻歌を歌いながら料理を作っているママ。


ダメだ‥
吐き気が‥

トイレに走り吐く。

気持ち悪い‥





『病院ってどうかしたの?』

おでこを触り熱を計りながらママが聞いた。


『あー‥なんか綾乃さん‥
いやコーキのママさんがお母さんと病院行きなさいって。
笑ってた』

『笑ってた‥?
何か言われた?』

『うん、月経が遅れてるか聞かれて
遅れてるって言ったんだけど』

私の言葉を聞いた途端、ママが微笑む。

『なるほどね、もう分かってるでしょ?』

『いや‥私さ性病とかかな?』
心配だった。
性病が可笑しくて笑ったんじゃないかとか‥


『あはははは』
突然、お腹を押さえてママが笑い出した。

この頃、お淑やかさが無くなりつつあるみたい‥





『ちょっと‥もう‥それ本気?』
可笑しすぎて声が詰まっている。

どうしたらいいんだろう私は。


『何なの?いったい‥』

ついに咳と涙まで出して笑っている‥

何だろう、恥ずかしい‥


『まぁ、明日分かるわよ』
ママは肩を叩きヨレヨレしながらキッチンに戻った。
でも、まだ可笑しいみたいで肩が震えている。


『今日は安静にしてなさい』
ママの言葉とともに擦りリンゴを貰い一口食べて寝室に戻った。




いてもたってもいられなくなって

携帯のサイトで調べる。

“月経 遅れ気味”

キーワードを打ち検索すると
見覚えのある言葉が出てきた。


妊娠‥

いや、覚えはあるけどね。
けど‥まさか予想外だった。


生理が遅れた時点で気付かない私もバカか‥

吐き気、頭痛
そんな症状もやっぱりあるようで。


だから、綾乃さん喜んだんだ。
なるほどね。

『ねぇ私って妊娠してるの?』
ママに近寄り話すと頷いて優しく笑ってくれた。


明日、病院行ったら
何もかもが分かる。



ー翌日ー


『どうぞ』
優しく笑う看護婦さんに連れられ
変な機会に座る。


『少し痛いけど我慢ね』

うっ‥
痛いよりも冷たい‥
気持ち悪い‥


検査が終わるとすっかり気力が無くなっていた。

ママの握ってくれた手が温かくて落ち着いた。


『どうぞ』
見るからに頭の良さそうな人に誘導され診察室に入る。

肩にママの手が置かれ目を閉じた。


分かってる、結果は。

『おめでとうございます』

ほらね、感情がこもってないお祝いの言葉とともに
写真が渡され説明を受ける。




『しかし、私もついにおばあちゃんねー』

車を運転するママが嬉しそうに言った。


良かったね‥
みんな喜んでくれてるよ。
お腹に触れて目を閉じた。


私には選択肢なんて一つしかない。

産む。ただそれだけ。


さっきママが言った。

『好きな人と愛し愛されるのは奇跡
そして二人の愛の結晶が出来るのは
もっと奇跡なのよ』と。


若いママだけど、頑張るから‥私‥

だから、ちゃんと伝えなきゃいけない人がいる。

少しの不安を抱えながら
震えた手でメールを打った。

『会いたい。大切な話があるの、今マンション向かってる』

少し遅れて返ってきた返事は
『分かった、いま帰る』
真っ昼間にお仕事早退させてごめんね‥




『頑張ってきなさい
もし捨てられたらママが養ってあげる』

笑って言われた言葉にありがとうと小さく呟きマンションの入り口に立つ。

ママは近くのカフェへと車を走らせた。


もう季節は3月を迎えた。

寒さも和らぎ春が来ようとしている。

緊張で肩が震えアスファルトに膝を抱えしゃがんだ。

怖い‥
何だか怖い‥

目から涙が溢れた。



『カレン、どうした?』
髪に触れるその声はやっぱり

『コーキ‥ってあれ髪‥』

『あぁ、兄貴と愛衣とトランプ勝負で負けてさ、罰ゲームでこの通り。』

長さは相変わらずだけど色が違う。
黒髪が茶髪になっている。

『久しぶりだな、元気だった?
で、何で泣いてる?』

『怖い‥私捨てられる‥』

頭を傾げコーキは状況が理解出来ていない様子。

『とりあえず部屋行こう』

体を支えられ部屋に入った。

陽にあたり光る茶髪かを見ながらまた涙が溢れる。





『で、捨てられるってのはどうした?』

ソファーで身を寄せ合う。


『絶対絶対絶対捨てないなら話す‥』
我ながら面倒くさい女だと思った。

『ん。じゃあ話して』
髪を撫でられ安心し話そうと決意した。


『コーキね、パパになるよ』
妊娠って言いたくなくて遠回しに言った。

『パパって、俺が?』

『うん‥』


『やっぱり本当だったのか』

いきなり私から離れ立ち上がった。

何だろう‥この展開‥


『昨日さ母親から電話あって
“あなたも父親になるんだからしっかりしなさい”って言われてさ』

綾乃さん‥

どうか私の緊張を返してほしい‥