『カレンちゃん?』
目を閉じている私に唯さんの声が響く。
『本当に死んで後悔しない?』
死んで後悔‥
『するかも‥しれない‥』
『まだやり残した事もあるでしょう?』
やり残した事‥
パパとの事‥
コーキとの結婚‥
『あります‥』
『なら刺せないわ』
首からナイフが外された。
と共に吐き気が襲う。
『唯さん‥ちょっとトイレかります‥』
病室内のトイレに駆け込み吐いた。
最近、体の調子が悪い。
吐き気や頭痛など‥
タオルで口を押さえながらトイレを出ると唯さんが心配そうに見つめていた。
『ご飯ちゃんと食べてる‥?』
『あんまり‥食欲なくて。』
『そう‥』
会話がぎこちない‥
唯さんと真っ正面からぶつかった事がないからか
話が続かない。
『じゃ‥帰ります‥』
唯さんに別れを告げ
家に帰宅する。
勉強したいけど、体が拒む。
ベッドに横になり目を閉じると携帯が鳴った。
この着信はコーキだ‥
『もしもし‥』
『あ、寝てた?』
『ううん、寝かけてた』
『じゃ、かけ直すか?』
『ううん、声が聞きたい』
私の精神安定剤。
声も体もコーキという存在が私に元気をくれる。
『どうかした?』
『んーと‥体の調子が悪い‥』
『どんな風に?』
『吐き気や頭痛とか‥』
『大丈夫なのか‥?』
大丈夫なのかって聞かれたら
『大丈夫だよ』
って言ってしまうよ。
好きだから心配かけたくない。
そっちだってお仕事忙しいもんね‥
『そっか、安静にな』
『うん、お仕事頑張って』
電話が終わり寂しさと不安が襲う。
帰りたい‥
けれど、勉強も家族も中途半端なままコーキに会えない。
『会いたいなぁ‥』
口に出した言葉は小さく消えていき
また吐き気が襲い
トイレに駆け込んだ。
『はぁ‥』
口から唾液が垂れ惨めで醜い姿が鏡に映る。
こけた頬に目のクマ
青白い顔
最悪だ‥
最近、痩せたような気がする‥
有紗さんの事をコーキに聞けていない。
コーキも稜の事を聞こうとはしない。
お互いが争いを避けている。
喧嘩をした事がないから分からない。
喧嘩の恐ろしさが。
ベッドに向かいまた目を閉じる。
携帯をマナーモードにして一切の音を遮断する。
心地良い眠りに少し安心し
目を深く閉じる。
明日からも頑張ろう‥
心にそっと呟いて
眠りについた。
学校って面倒くさい‥
苦手な美術を受けながら思った。
絵心がないし、絵も下手。
昔から美術だけどうも相性が悪い。
吐き気が収まり気分は上がっても
美術で下がる。
『はぁぁ‥』
学校が終わり溜め息をつきながら校門を通る。
万里子は日直で帰りが遅くなるらしく
一人‥
『あの‥あなたよね?』
『え?』
ショートカットの背の高い綺麗な女性が話しかけてきた。
『あ‥ご、ごめんなさい‥
カレンさんよね?』
『あ‥はい‥』
えーっと‥誰だっけ?
パパの取引先の人?
遠い親戚?
全く分からない‥
歳は‥45くらいかな?
しかし綺麗な人‥
でも誰?
『あ、自己紹介遅れてしまいましたね‥
私は橘綾乃といいます』
『橘‥ってもしかして!』
つい指を指してしまった自分の下品さに自重すると綾乃さんは笑ってくれた。
『そうそう
洋樹と弘樹の母親です』
そ、そういや‥
お母さん来るかもって言ってたな‥
『あ‥あの新庄香玲です』
焦ってお辞儀をすると綾乃さんは『よろしくね』と優しく笑った。
しかし、流石はイケメン兄弟のお母さん。
美人だ‥
お母さんに似たのは洋樹さんだな。
目と口がソックリ。
愛衣ちゃんの口は洋樹さん似だけど
原点はお母さんなのかぁ‥
一人物思いにふけていた。
『似てないよね?』
駅前の喫茶店でコーヒーを飲みながら綾乃さんがいきなり言った。
『あぁ‥コーキにですよね?
綾乃さんの遺伝子は洋樹さんに受け継がれてますね』
『そうなのよ
洋樹は私似だよね
弘樹は旦那に似てるのよ~
もうソックリ』
コーキのパパさん‥
格好いいんだろうなぁー
『じゃあ、コーキは全てパパさんに似てるんですね』
『いやーそれがそうでもなくてね』
『え?』
『あ、ううん
いずれ会うんだから、その時のお楽しみに』
意味深に笑った綾乃さんに何だか不思議に思いつつも笑い返した。
コーヒーを飲んでいる途中でまた吐き気が襲いハンカチで口を押さえ
トイレに走った。