続・彼女が愛した温もり



『カレンって全然声出さないな』

私の体を大分愛撫し終わったコーキが笑いながら言った。

『そんな事ないよ
本当は体中ゾクゾクしてる
ただ恥ずかしいから声は体と体が繋がった時まで楽しみにしてて』

もうこの後は予想がつく。
愛撫のあとに待つのは接合。
そしたら本当に余裕が無くなるから
ちょっと大人ぶった言葉は今しか言えない。


『なぁ、この後どうする?』

意地悪く笑うコーキが憎らしく最高に愛しくて。
実は目の前の最愛の男はSなのかもしれない。
私にこの後の展開を言わすなんて。
知っているくせに。
愛撫の後は接合という快楽に溺れる。

でも、何だか快楽よりも目の前のS男に溺れそうな自分はどんだけドMなんだと変な寒気がした。

寒い…
早く温もりが愛が
それよりも

『コーキが欲しい
ねぇ、私の中に来てよ』

恥ずかしさなんかなくて、
理性を忘れた本能が言葉を言った。

欲しいものには貪欲に。
どこまでも、どこまでもね。



返事の代わりに触れ合った唇が
これからの快楽の幕開けだった。

『ん…はぁ…いった…』

久しぶりの挿入を舐めていた、完全に。

痛い…

口を開こうとしたコーキの唇に指をあてて遮る

もう言葉なんて予想出来る。
『ならゆっくりするか?』とかきっとそんなの。

『明日から…
離れ離…れだ‥から痛い…くら…いが丁度いいの…
ん″ー…』
途切れ途切れになりながら必死に言葉を伝えた。

頭を撫でながら小さく頷いたコーキの首に手を回した。

もう、痛みとか別にいい。

『ん″…あっっ…』
痛みはやがて摩擦の気持ちよさに変わっていく。

愛や恋が存在しない。
ベッドではみんな霞んでて

確かに見えるのはやっぱり相手だけ。

ベッドで愛を伝えあう行為に実は愛や恋は戯言のようで。

ただ曖昧な全ての中に
繋がりあう体と気持ちが愛なんだとセックスは人を錯覚させる。




顔を歪めるコーキの頬にキスをして


゛もっと、もっと
こんなんじゃ足りない。
激しい中に優しさがやっぱり潜んでる。
優しさとか気遣いなんていらないから
激しく荒くその中に愛を注いで″


言い終えた後
コーキは苦笑いしながら
『俺も体力尽きるな
明日は筋肉痛だ』
と笑った


それからは本当に激しくて
でも、やっぱり優しさは潜んでいた。

結局、私はコーキのそんなトコが何よりも好きだったりする。


『あー愛してるって言ってもらってない!』

行為が終わってベッドで身を寄せ合うコーキに睨みながら言った。

『いやー…あの激しさに声なんて出なかったよ
カレンにあんな趣味があったとは。
大変な彼女持ってるよな俺』

『ちょっと!変態扱いとかヒドい…
でも、結局激しいおかげで最高に気持ち良くなれたじゃん』

『それで、良かったと言っていいものか…』

小さな笑いがおきるベッドで
2回戦は行われなかった。

ただ、行為の間に忘れていた
愛の言葉の催促をしていたのは言うまでもない。



『そんなに腰痛めたんだ』

笑いながら言った私の先には
コーキが腰を押さえながら立っていた。

『昨日はたくさん腰振ったもんねー』

『うるさい‥』
コーキが照れくさそうに頭を掻きながら小さく言った。


『まぁ、しばらく私いないし腰使う事も無いだろうからゆっくり休んでね♪』

コーキはもう何も言わず睨んでいた。

『ねぇ、もし会いたくなったら帰ってきていい?』

コーキに抱きついて言うと
『3日は我慢な?』
と優しく言った。

『忘れないでよ‥
私、毎日月見て元気もらうから』

体に触れると寂しさが溢れる。

『月が俺なんだったか‥
いや似てるんだったか‥
前言ってたよな』

『うん。
大好き‥大好き‥
コーキ大好き』

もう気持ちが止まらない。

『じゃあ、俺はマツバボタン育てるかな』

ギュッと力を強めると頭を撫でてくれた。




『あーちょっと待てよ』

コーキは寝室へ行き小さな小さな箱を持ってきた。


『ん?爆弾?』

『な訳あるか。
心中するわけないだろ』

笑いながら青いリボンの結び目をゆっくり解き開いた箱の中には

指輪がはまっていた。

シルバーにキラキラと光る石がとても綺麗で。

これは完全に期待させる。
この後指にはめてくれるんだとか。

でも、違った。

『これカレンに持っててほしい』
指輪を私に見せコーキは再び箱を閉じた。

『え?はめてくれないの?』
ちょっと、ううん。
すごく期待したのに。

『ちゃんと家族と分かり合えてカレンが戻ってきたらはめるよ』

なるほど‥

『意外とキザなんだね』

でも、これで頑張れそう。
箱を受け取り大切に鞄に閉まった。



『なぁ、首のソレ隠せよ?
あと体中所々にあるから』

コーキに鏡を差し出され首を見ると
赤い跡が生々しく小さく花びらのように咲いていた。


『やるね~』
笑って茶化すと

『それくらい証付けといた方が激しいだろ』
と、笑いかえされた。
服から覗いた胸の谷間の近くにもマークはあった。


『あ!あと、帰ってきたら俺の実家行くから』

『えー‥大丈夫なの?17の嫁って‥?』

『あー全然大丈夫だってよ
もう俺が結婚するだけで嬉しいらしい。

で、母親がカレンがしばらくいないって伝えたら会いに行くって行ってるんだよ‥
冗談だと思うけど、もし会いに来たら軽くあしらってやってくれ』

『わかったわかった~』

この時、冗談だと信じ込んでいた事を私は後ほど後悔する。




『おかえり~♪』

会いたかったと泣きながら抱きつく万里子がこの上なく可愛かった。

金髪が茶髪になり着崩していた制服がちゃんと原型を留めている。


『で、何で俺を呼ぶんだよ‥』

『恵介もありがとう』

私が笑いかけると恵介は溜め息をついた。
あの変なお見合い?以来で
変わらない恵介に親しみを感じた。


コーキのもとを離れてから一週間がたち
私たちを繋ぐのは
体でも手でもなく電話とメールだけ。

でも、忙しいのにちゃんとくれる電話も愛がある。


しかし、キスマークが消えない‥
明日から学校行くなのに。

首の一部だけファンデーションで必死に隠していた。

でも、明らかにおかしい‥

仕方ないと諦めモードなのは言うまでもない。



『ねー恵介くんメアドと電話番号教えて~』

出た‥万里子彼氏が欲しいらしい。

でも、恵介は教えるはずがない。

『じゃ、先送信するから』

『わかった~じゃ、あたし受信ね』

携帯の赤外線ポートを向かい合わせにする二人に私は取り残されていた。

『え?恵介彼女いるでしょ!』

連絡先交換を終えた恵介に問い詰めると

『あー‥別れた』

『大事な彼女なんじゃないっけ?
守るんじゃないっけ?』

肩を掴み揺すると万里子に止められた。


『色々あんだよ‥』

少し低くなった声にもう何も言えなかった。


『で、あんたこそ親父さんとはどうなの?』

頬杖をつき仕返しを狙う恵介から目をそらし


『全然‥』
一言で全て片付けた。

唯さんが入院でパパと二人きりの家に
会話も何もない。

そして先に逃げ出したのはあっち。
簡単に荷物をまとめてパパは近くのホテルに滞在している。

広い家に独りきりはさすがに嫌で
今日は万里子と恵介を招いた。


♪♪♪~♪~

カーディガンのポケットから携帯の音が響いた。

画面を見ると知らない番号。

リビングから出て玄関付近で電話に出ると

『もしもし?』

『こんばんは、元気?』


『舞花さん‥』

高い声が耳に響き寒気と同時に
何ともいえない不安が巡った。