『カレンちゃん
あなたの名前ね
゛マツバボタン″っていう花の花言葉からきてるのよ
バラや百合のように高級な花じゃないし希少でもないけれど
あまり世話をしなくても育つ強い花なの。
花言葉は可憐、無邪気
未熟児で生まれたあなたに強く生きてほしいと漢字は違うけど花言葉の可憐から名前をとったのよ
そんな願いと意味を込めて名前をつけた父親が本当に娘を嫌いなのかしら?
後はあなたが考えなさい。
あなたには考える力があると思う
じゃあ、また会いましょう
幸せにね』
名前の由来なんて聞いた事がなかった。
深い意味などないと思ってた。
有名人の名前とかハリウッドスターの名前とか…
そんなんだと思っていた。
パパは私にそんな願いを込めてくれてんだと
はじめて知った。
シャーっ…
前のドアが開きパパが私のもとへとやって来た。
そして私へと視線を向け
『本当に結婚するのか…?』
『え?』
『会話が少し開いていた扉から聞こえていたよ』
『あーそうなんだ
良かったね。
邪魔な娘はお嫁に行くから
大好きな奥様と幸せな生活送ってね』
『カレン…』
コーキはパパと私の顔を交互に見ながら困った顔をしていた。
『一人娘を嫁にいかせる父親の気持ちなどお前には分からないだろう
反対はしないが、今本当にそのままで結婚して上手くいくのか?
自分の欠落した箇所に気づきなさい』
パパは静かに言葉を吐き捨て病室へと戻った。
扉の閉まる音が私の未熟さと欠落を示していた。
『パパだって何も知らないくせに‥
父親に嫌われる娘の気持ち知らないくせに‥』
閉まったドアに呟いた嫌みに似た言葉は儚く消えた。
『カレン、婚姻届は書こう
ただ出すのは親心に気づいてからだな。
しばらく実家に帰って親父さんと向き合ってみたらどうだ?』
『どうして‥?
私を見捨てるの?』
嫌だ、あんな家に帰るなんて。
『そうじゃない
俺だってカレンが側にいないのは寂しいんだ
でも、このままじゃダメだ。
わかってくれよ、な?』
コーキが切実に私の頭を撫でて言うものだから
嫌だと言えなかった。
確かに、このままじゃダメか…
でも、
『その変わり今日は熱く激しく抱いてくれる?』
次第に頬が赤くなるコーキが可笑しくて笑ってしまった。
でも、
『男の本能なめんなよ?
一晩寝かせないぐらいの力有り余ってるからな』
なんて言うから
なんだか期待してしまう自分に一番笑ってしまった。
『久しぶりなんだよね、誰かに抱かれるの…だから恥ずかしい…』
いざ、そいいう雰囲気になると恥ずかしさは半端ない。
『そこで久しぶりじゃないと言われると逆に辛いよ』
やっぱり結構恥ずかしい。
お互い、まるで初めてのような姿でベッドにいた。
『まぁ、でも
このままじゃ…ねー?』
『だな、よしいくぞ』
『え?ちょっと…いくぞってどういう意味?』
行くぞの事?イくぞの事?と言いかけた時には口を塞がれていた。
ゆっくりと倒される体にシーツのひんやりとした冷たさを感じる。
シーツから大好きな香りがする。
香水をつけないコーキからはいつも整髪料の控えめな香りがする。
好きなんだよね、その香り
香水とかつけて無駄に気取る男は嫌い。
『最後に聞くけど、
激しく?優しく?
どうする、カレン』
小さく笑いながらネクタイを緩める姿に
ドキドキしながら
『私の望む方当ててみてよ』
笑って答えた。
『んー
じゃあ゛激しく″か』
小さく頷くと
大きい手が服に触れた。
服を脱がされ下着姿になり
胸の締め付けから解放され
生まれたままの姿が露わになる。
『恥ずかしいね…』
緊急する体の力はコーキの優しい声で
解かれていく。
゛でも、これから愛しあうんだ俺たち″
言葉が囁かれたあと
耳にキスが注がれた。
首に腕を回して行為が始まる。
次第に激しくなるキスとは違い
愛する香りは優しくまとわりつく。
久しぶりに口じゃないキスを感じた。
口、首、胸、足、背中。
人間の体っていたるところにキスが出来る。
よく出来てるなー。
触れられながら
そんな事を考えられたのは最初だけだった。
余裕なんて無かったけれど、熱い吐息や触れあう体が理性も全て無くしていく。
性欲は男も女も必ずある。
男はたくさんの人とセックスをしたい。
女はたった一人の愛する人とだけセックスをしたい。
なんて話を聞いた事あるけど、
私はやっぱり
もうコーキ以外には抱かれたくない。
ねぇ、コーキは思ってくれる?
もう私以外抱きたくないと。
私だけにしてくれる?
熱いディープなキスも
優しく抱きそうな予想を見事に覆す激しい抱き方も
冷え性体質な私とは裏腹の温かい体も
全て知っているのは私だけで充分でしょう?
『カレンって全然声出さないな』
私の体を大分愛撫し終わったコーキが笑いながら言った。
『そんな事ないよ
本当は体中ゾクゾクしてる
ただ恥ずかしいから声は体と体が繋がった時まで楽しみにしてて』
もうこの後は予想がつく。
愛撫のあとに待つのは接合。
そしたら本当に余裕が無くなるから
ちょっと大人ぶった言葉は今しか言えない。
『なぁ、この後どうする?』
意地悪く笑うコーキが憎らしく最高に愛しくて。
実は目の前の最愛の男はSなのかもしれない。
私にこの後の展開を言わすなんて。
知っているくせに。
愛撫の後は接合という快楽に溺れる。
でも、何だか快楽よりも目の前のS男に溺れそうな自分はどんだけドMなんだと変な寒気がした。
寒い…
早く温もりが愛が
それよりも
『コーキが欲しい
ねぇ、私の中に来てよ』
恥ずかしさなんかなくて、
理性を忘れた本能が言葉を言った。
欲しいものには貪欲に。
どこまでも、どこまでもね。
返事の代わりに触れ合った唇が
これからの快楽の幕開けだった。
『ん…はぁ…いった…』
久しぶりの挿入を舐めていた、完全に。
痛い…
口を開こうとしたコーキの唇に指をあてて遮る
もう言葉なんて予想出来る。
『ならゆっくりするか?』とかきっとそんなの。
『明日から…
離れ離…れだ‥から痛い…くら…いが丁度いいの…
ん″ー…』
途切れ途切れになりながら必死に言葉を伝えた。
頭を撫でながら小さく頷いたコーキの首に手を回した。
もう、痛みとか別にいい。
『ん″…あっっ…』
痛みはやがて摩擦の気持ちよさに変わっていく。
愛や恋が存在しない。
ベッドではみんな霞んでて
確かに見えるのはやっぱり相手だけ。
ベッドで愛を伝えあう行為に実は愛や恋は戯言のようで。
ただ曖昧な全ての中に
繋がりあう体と気持ちが愛なんだとセックスは人を錯覚させる。
顔を歪めるコーキの頬にキスをして
゛もっと、もっと
こんなんじゃ足りない。
激しい中に優しさがやっぱり潜んでる。
優しさとか気遣いなんていらないから
激しく荒くその中に愛を注いで″
言い終えた後
コーキは苦笑いしながら
『俺も体力尽きるな
明日は筋肉痛だ』
と笑った
それからは本当に激しくて
でも、やっぱり優しさは潜んでいた。
結局、私はコーキのそんなトコが何よりも好きだったりする。
『あー愛してるって言ってもらってない!』
行為が終わってベッドで身を寄せ合うコーキに睨みながら言った。
『いやー…あの激しさに声なんて出なかったよ
カレンにあんな趣味があったとは。
大変な彼女持ってるよな俺』
『ちょっと!変態扱いとかヒドい…
でも、結局激しいおかげで最高に気持ち良くなれたじゃん』
『それで、良かったと言っていいものか…』
小さな笑いがおきるベッドで
2回戦は行われなかった。
ただ、行為の間に忘れていた
愛の言葉の催促をしていたのは言うまでもない。