続・彼女が愛した温もり



『まぁ、ただカレンちゃんに梨花が弘樹の娘だって言っただけよ』

『な訳ないだろ』

『そうだね
私たち梨花を妊娠した頃には肉体関係いっさい無いもんね』

高校時代は肉体関係も大切だと思っていた
でも、卒業してから一切舞花を抱きたいと思わなかった

『ねぇ、カレンちゃんを弘樹はどんな風に抱いてあげるの?』

『は?』

『優しくしてあげるの?
それとも‥激しく?』

意地悪に笑い挑発するように話す舞花は
完全に悪魔だった。


『カレンには訂正しとくから、帰ってきたらな』

直接的にではなく間接的に舞花にカレンがいない事を伝え
一万円札を置き立ち上がった

そんな俺の腕を掴み舞花は言った



『カレンちゃんに戻ってきたら伝えておいて
会いたい‥と。』

『また、何か言うのかよ。』

『言わないわ
ただ、謝りたいの
それだけ。』

舞花の左手の薬指には指輪はなかった

ただ、最近までははめていたらしい指輪の跡が残っている

カレンは舞花と会いたいだろうか。

まず俺はカレンに会えてさえいないのに。


『カレンが会いたいと言えば会わすよ。』

そのあと、舞花が差し出した連絡先が書かれているメモを持ち

舞花と別れた。

何でなんだ。
嫌な予感がする。


カレンは冬でもあまり厚着をしない

風邪はひいてないだろうか。


もしもカレンの居場所が分かるなら
どこだって会いにいくのに

場所さえ不確かで。


♪♪~
いきなり鳴った携帯には

ディスプレイには待ちわびた名前が光っていた。

『カレン』

もしも、これが見間違いなら
すぐ消えてほしい

なのに、目の前の携帯には『カレン』の名前が光っている。




『カレン、なにし‥』

もしもしも言わずに電話に出た俺にカレンの笑い声がした

『寒いね、風邪引いてない?』
冷静な声が俺の耳に響いた

『どこにいる?』

『一つだけ約束。
私は元気だから警察とかには連絡は絶対しちゃダメ。
じゃあ、バイバイ‥』


質問に答えもせず無理やり切られた電話に怒りなんてなかった。

ただ、気づいた
バイバイの切なそうな寂しそうな声に。


きっと何かがあるんだろう。
でも、信じよう。
カレンの『元気』という言葉を



『どうして無理やりでも場所聞かないの‥』

なんて誰も言わなかった

杏里ちゃんもカレンのお母さんもみんな

『無事で良かった』と一言いい
俺を責めなかった


それから警察には連絡はしないと決め
カレンの帰りを待つ日々が始まった

でも、毎日毎日心配でついつい警察に電話しそうな自分がいた。

当然、俺からカレンへ電話しても出ない。

いつの間にか一人になるのが嫌で
兄貴の家に泊まっていた



『お前はいつからそんな寂しがり屋になったんだよー』

兄貴が笑いながらいった

愛衣の髪をときながら思う

愛衣の長髪はカレンを思わせる
長い黒髪からいつもシャンプーの香りがしていた

あの香りはいまも前も俺の精神安定剤。

というよりも、カレンが俺の精神安定剤なんだ。

『いつまででもいて良いからね
ね、愛衣?』

『うん!ずーっといていいよ~』

愛衣のあどけない笑顔も有紗と兄貴の優しさも
ただ心に染みる。

俺はもう無理みたいだよ、カレン。
一人きりは。

カレンがいない毎日は生きてる心地がしない。




『笑わなきゃダメなんだよ』

『え?』

愛衣のいきなりの発言に驚いて聞き返すと

『あゆみ先生が言ってたよ
悲しくても笑わなきゃって。
損するのは自分なんだよって。』

゛笑わなきゃいけない″

『じゃあ…笑ったらカレンは帰ってくるっていうのかよ。』

『え?』

『あ…いや何でもないよ。
笑わなきゃだよな』

『うん!』

思わず愛衣に本音を言ってしまった。
小さく呟いたから良かったものの。

情けない。



有紗は苦笑いしていた。

どうやら感情をコントロール出来なくなってきたようだ。

でも、愛衣に聞こえていなくて本当に良かった。


大事な姪っ子を危うく傷つけるところだった。



この時、俺はカレンを失った事にショックを受けていて

舞花の事はすっかり頭に無かった。


舞花がまだ何かを仕掛けてくるつもりだと全く分かっていなかった。




『お前ってやつは何で場所とか伝えないかなぁー』


コーキとの電話を終え携帯を握りしめ震える私を見て稜が言った

無理やり私を殴ってまでココに連れてきたくせに
電話もしていいと言うし
別に体を縄で縛られる事もない

そして、終いには
コーキに『助けて』だとか居場所を伝えなかった事に稜は呆れた

相変わらず変なやつ

でも、昔より何だか大人になったみたい。


『なぁカレン、なぜ電話で助けを呼ばない?
俺は別に怒らないし、自由に電話をさせてるはずだよな?』