「夜空を駆けるおまえの翼を失くしたくなかっただけのことだ」


そう言うと
ディーノはツイッとファルスの顎に手を掛けた。

それから引き寄せるように
艶々と輝く赤き唇に
ファルスの唇を重なるほど近くに引き寄せた。


「今宵はおまえも我と来い」


ディーノの声に
ファルスはスッと身を離し

「王の言葉に従います」

と深々と頭を下げて見せた。


ディーノは暗く重いカーテンの向こうの
光に溢れた太陽(ファーザー)の世界に
視線だけを向けた。


蠢く死体たち。


人でもなく。
まして同士などでもない。


人を喰らうことでしか
生きられなくなった屍と化した
暗き魂が生み続ける新しき命。


それを刈り取らなければ
静かな夜は戻らない。