リビングの扉を開けようとした。


「あっ……け、いっ」


…あの女の甘い声が聞こえた。


聞きたくなかった。


「慧ぃぃっ…」


呼ばないでよ。
そんな声で、慧を呼ばないでよ。


「あっ…っ…」


…どうしてだろう。


あんなに慧が嫌いだったのに。


どうしてだろう。


「千っ……依」


涙が溢れた。

慧の、あの女を呼ぶ声が。