ああ、もう。悩んでもこの状況は変わらないんだ。


あたしは走った。

慧の家へと走った。


あの女がいませんように。


あの女が余計なこと言いませんように。


「はぁ…っ、はぁ…」


やっと慧の家に着くと、あたしは躊躇った。

だって…どんな顔をして会えばいいの?


深呼吸をして、目を閉じた。


「…よしっ」


扉を勢いよく開けた。


…いないのかな。

中へと入って行くと、まだ女のサンダルがあった。


「お、お邪魔します」


小さい声で言った。
聞こえないくらい小さい声。