何故か心地よい雰囲気のお店。


開店前らしく、お客さんはもちろんいない。


「どうして、寛久・・・君は私に声をかけてくれたの?」


「寛久でいーよ。呼びにくかったらヒロでいい。」


短くそういわれたものの、今の私の質問の答えになってない。


タイミングを外した私は、言葉を失って黙り込む。


そんな私の姿に気づいたのか、質問をされたことを思い出したのか、ゆっくりと話し出した。


「たまたま・・・俺も人を待ってたんだ」


茶色の髪を少し揺らしながら、ヒロは目を伏せた。


「待ち合わせ?」


「違う。待ち合わせなんかじゃない。俺の一方通行」



ヒロの唇は、薄くて小さい。


そんなヒロの唇が小さく動いている。


「待ち合わせじゃないのに、待ってたの?」


「そう。その人は、俺のことを待っている訳じゃない」


こんなに容姿端麗の人でも、片思いなんてあるのだろうか。


黙っていても、周りには女の子で溢れていそうなのに。


「そっか・・・。それで?結局会えたの?」


「んー・・・」


ヒロの曖昧な返事の途中で、ブーっとカバンの中で携帯が鳴った。


・・・!

期待しちゃいけない。


だけどもしかしたらっ


携帯がこわれちゃってたのかもしれない。


事故にあっていたのかもしれない。


隣にいるヒロの存在さえ、今の私には見えていなかった。


「・・・来た?」