カバンの中にある携帯を探る。
手に触れた携帯を取り出し、カパっと開いてもメールも着信も無い。
再び浮かぶ涙に、どうこらえて良いのかを私は知らない。
「・・・ほら。」
いつの間にか隣にいた男の人は、湯気の立ったカップを差し出してくれた。
「ココアだ・・・」
しかも、私の大好きな生クリーム乗せ。
昔、これが大好きなんだって尚君に言ったら“甘すぎるよ、それ(笑)”って、返信が来たんだよね。
「ありがとう・・・」
「まだ、泣いてるのか?」
男の人は、隣に腰かけてそう問いかけた。
「・・・少しだけ」
「そっか」
そう言いながら、自分用に入れたブラックコーヒーを口に入れた。
どうしてこの人は何も聞かずにそばにいてくれているのだろうか?
もし、この人が声をかけてくれなかったら私は今も駅前で一人泣いていたかもしれない。
ちらっと隣の人に目を向ける。
今までは俯いて泣いていたから、どんな顔の人なのかも未だにはっきり見ていなかった。
「・・・」
腰を下ろしていても分る長身の背。
低いソファでは、余ってしまう長い足。
コーヒーの匂いと混ざる微かな香水の香り。
声に詰まるほどの、
綺麗な顔立ちをしている人だった。
「ちゃ、いろ・・・」
ヘーゼルに近い程の薄い茶色の瞳。日本人で、ここまで薄い茶色の瞳の人とは出会ったことが無い。
それを覆う切れ長の奥二重は、一瞬は不機嫌そうにも見えてしまう。
だけど・・・
吸い込まれてしまう程の綺麗な瞳に、私は言葉を失っていた。