このメールを
読み終えた
僕の周りの風景。

いつもの我が家の、
狭いダイニングルーム。
色という色が
消えうせ、灰色になる。

僕は今、
どんな顔を
してるんだろう。
生まれてこの方
僕自身も誰も
見たことのないような、
不思議な顔を
しているに違いない。


携帯を閉じて、
テーブルに置く。
妻の薫は
用事で出かけた。
息子の雄太は
塾の講習でいない。


携帯の向こう側に
いるはずの、
美雨も
いなくなってしまった。


言いようのない
孤独感に見舞われた。

美雨と会った日以来、
薫と雄太から
うす気味悪がられるくらい
二人に対して
優しくなれた。
心から優しくなれた。


美雨の幸せを
願う気持ちを、
今一番そばにいる人に
向けようとした
だけだった。


自然に振舞えた。
だけど、
僕は美雨とのことを
家族には
話していない。
美雨を諭したはずなのに、
うしろめたいことを
したという認識がある
自分自身が嫌だった。

やはり、婚約者に
正直に話す美雨の
ピュアな心は、
生まれながらの
ものだったんだ。


僕にはできなかった。