子供にいい教育を与える、
将来いい大学、有名な会社に入れる。

薫は、このことだけにのめり込むようになった。


自分の夫に興味を示さない。

「じゃあお母さん、行ってきます!」雄太の声に、はっとした僕は、いそいそと食パンにかじりつく。


一瞬、薫の柔和な笑顔を見た。


もちろん、僕に向けたものではないが。


息子さえも、僕の存在を気にかけなくなったような気がする。母親を真似て・・。
「じゃあ、僕もそろそろ行ってくる」

薫との話題を見つける苦労をするより、早くこの家を出たほうが薫も喜ぶだろう・・。

そんな毎朝の光景、これが普通になっていた。


「いってらっしゃい」背中で聞いた、薫の暗い声。

僕は振り返りもせず、黙って玄関のドアを開けた。