小学6年になる息子の雄太も、僕を横目でちらっと盗み見たあと、無言で食パンにかじりついている。


僕の目の前には、冷めて固そうな食パンが一枚。


コーヒーのまだはいっていないマグカップ。

「今夜って、あれ?なんだっけ?」
本当にど忘れした。

薫は、ものを言うとき、わかっているはずという言い方を好む。

僕がどれくらい家庭のことを把握しているのか 試されているのだ。そして、いつもどおり薫のため息。


「はあ〜、もう忘れたの?雄太の塾のお迎えよ?」


今度は背中を向けながら。


「あ、そっか。そうだった。8時でいいんだよね?」
苦笑いしながら答えた。

これもいつものこと。薫のとげのある態度や言動に腹を立てるというより、もう慣れた。



いや、あきらめた。

いつからだろう。気がつくと、薫は僕を真正面から見なくなっていた。


動作でも、・・・心でも。