自動ドアをくぐると、ピュウッと北風が走り抜けていった。
まだ2月中旬、やはり少し寒い。

私は一木の目をしっかりと見据えた。

「それで、さっきの続きだけど」

「ああ」

「私、一木と会うことが面倒だなんて思ってないよ」

「そっか、」

「だけど、どんなに好きな人との約束でも…あ、友達も含めてだよ?」

「ははは、うん、友達も含めて?」

「やっぱりどうしても遅刻癖が治らなくて…その…ごめんなさい」

「うんうん、そっか」

一木は柔らかく笑ってくれた。
やっぱり一木の心は広かった、壮大だった。そしてそれだけではない、とても優しかった。


「ほーら寒いだろ、抱きしめてやろうか」

調子づいた一木はある意味怖い。アメリカからの帰国子女だからだろうが、欧米のテンションでスキンシップをとろうとする。

「ちょ、やだよ恥ずかしい」

「俺が小さい頃は街で抱擁を交わすカップルをよく見たぜ」

「それはアメリカの話でしょう!」

「アメリカも日本も一緒でしょー」

ふわっと抱きしめられる。ほら、道行く人々が痛々しいよって目ででこっち見てるじゃない、やっぱり欧米のノリにはついていけない。だけど、この暖かさからは幸せを感じるんだ。

一木が私の耳元でそっと呟く。

「しかし日野は鋭いな、俺、いつもくだらない怒りとかは表に出さないように努力してるのに」

「私の観察力をなめてたな?」

「ははは、恐れ入りましたよ日野さん」

「…くだらなくても、少しくらい態度に出すくらい別にいいと思うよ。少なくとも私といる時は、ね」

「…へぇ、じゃあ愚痴愚痴男になってやろうか」

「そういうことじゃないから馬鹿」

「わかってるって、ありがと、な」