……お礼?


ピンとこない発言に首を自然と傾げると、
大野亜矢子はふんわりと微笑む。


「私の好きなお店があるんです。先生、一緒に行きましょうよ。」


「えっ…いや、でも……」


病院を抜けてしまったら、
俺たちの関係は、『男』と『女』。


それは、駄目だ、絶対に。


「先生、まだ診察が残ってるんですか?」


「いや、今日はもう無いんですが…でも…。」


思わず、吃る。
いくらなんでも、不味いだろう。

「お願いです。…ね?」


そんなふうに見られたら、
揺れる瞳を見せられたら、
断れるわけ、ないのに。




「わかり…ました。」


彼女は、嬉しそうに、
目を細めて笑った。