「ねぇねぇ、先生。お姉ちゃんも一緒にキャッチボールやろうよ〜!」
「え?!いや、でも…」
チラッと先生が私を見た。
「大丈夫です。」
その眼差しを見たまま、
私はスッと立ち上がった。
「先生、私ね、キャッチボール得意なんです。」
「…へっ?」
「昔……父とよくやったんです。キャッチボール。」
ゆらりと浮かぶ、記憶。
お父さんは、野球が大好きだったから。
私ね、忘れられない。
追いかけたお父さんの背中、
もう届かない、私の、声。
聞こえない、お父さんの、声。
「…じゃあ、一緒にやりましょうか。
でもグローブが二個しかないので、僕はちょっと休憩してます。
あそこのベンで。」
先生は木陰のベンチを指差した。
「先生、おじちゃんだもんね。」
「こら!まだまだ俺は若いんだから、お兄ちゃん、でしょっ?」
そう言って、男の子の脇をくすぐった。
「あはははは!ごめんなさい!」
男の子は本当にくすぐったそうに、ケラケラと笑い転げた。
その光景はまるで兄弟のようで、優しさを近くで感じた。