応答は、無い。
「…わかり…ました……」
か細い、声。
彼女からのその声を、必死に聞いた。
「今日は、ゆっくり寝てください。
夜は、精神的に不安になることが多いですから。…ね?」
「…はい。」
「では…おやすみなさい。」
「おやすみ…なさい。あっ…」
「どうしました?」
少しの沈黙のあと、
ゆっくりと、彼女は言った。
「電話…ありがとう。」
意外な言葉に、トクンと胸が鳴る。
「いえ。…おやすみなさい、大野さん。」
電話は切れた。
会わなくて…よかった。
あんなに寂しそうで、
泣きそうな彼女を前にしたら
俺はきっと…
彼女を抱いたに、違いないから。