抱き締めて…しまった。


俺は医者で、彼女は患者で…
その関係を、壊してはいけないのに。


俺は、
自ら壊そうとした。


何なんだろう。この気持ちは。


彼女に惹かれているのは
紛れもない事実で、


でもそれは、単に愛情とか同情とか、そんなものではなくて……



わからない。
わからないけど、


俺が傍にいなきゃいけない。



なぜか、そんな気がするんだ。


何なんだろう、この気持ちは。




「川崎先生、またため息ついたぁ〜!」


達也くんの診察を終えると、
またまた見抜かれてしまった。


どうも大野亜矢子に会ってから、調子が狂う。


「先生、ため息ばっかついてたら幸せ逃げちゃうよ。
ほら吸って、吸って!」


達也くんはそう言うと、
息を吸う真似をした。


その姿は何とも愛らしい。
思わず笑ってしまった。


「あ!先生笑った!やっと笑った!」


「…え?」


「先生なかなか笑ってくれないんだもん。よかったぁ〜。」



こんな小さな子どもに、
心配されていたなんて。



胸が熱くなった。



「心配かけてごめんね、ありがとう。」


頭を撫でると、達也くんは気持ちよさそうに笑った。