軽く会話をしながら、
この前の病室へと向かう。


ドアを開けて彼女を中に通し、
そして、閉める。


こんな当たり前の動作の中で、
俺は見つけてしまったことがあった。


それは



彼女の首もとに見えた、
赤い印。


たぶん…キスマーク。


なんだかいきなり胸がモヤモヤして、俺は目を反らした。


そうだ、彼女に好きな人がいるなんて当たり前じゃないか。


両親がいなくても
彼女には愛すべき人がいるのかもしれない。


そうだ。
きっと…そうだ。




「先生…?」


「あっ…どうぞそちらに座ってください。」



「なんだか先生…慌ててる?
それとも、体調がお悪いんですか…?」


「へっ…?」



突然の出来事だった。
まるでスローモーションのように彼女の顔が近付き



俺の額に触れる、柔らかい指先…掌。



「熱は…無いみたい…」


上目遣いで、見つめる。


あと数ミリで触れてしまいそうな唇。


ふと香るシャンプーの匂い。



何よりもあり得ない、
俺の心拍数の速さ。



俺は何も言えず、
彼女の形の良い唇を見つめていた。