「卒業生、入場!」
静かだった体育館に拍手が沸き上がった。
後輩達の、熱い視線が痛いな。
俺の苦手な、厳粛な空気が流れる。
かったるい気持ちとは反対に、式は始まった。
「卒業証書授与」
3クラスしかないが、長い時間だ。
「3年B組」
あいつのクラスになった。
聞き慣れた声が体育館に響く。
学校帰りに、一人になりたくて立ち寄っていた、あの喫茶店に居たあいつ。
何となく目が合って、それから話すようになった。
いつも明るく笑う、あいつに会うと、気持ちが和んだ。
あいつの、熱い視線も感じていた。
でも、俺には恋じゃない。
今日、この時間が終わったら、あいつは会いに来るのだろうか。
いや、これで最後だから、友情のさよならをしなきゃな……
花道を通り、その先であいつを待つ。
しばらくすると、少し涙目のあいつが、来た。
「これでお別れだな」
「……」
「寂しくなるな」
それ以上の言葉が見つからず、そっと右手を差し出した。
あいつは下唇を噛み締めて、俺の手を取る。
遠くで友達が呼んでいる。
「今まで、ありがとうな。じゃ、またいつかどこかで!」
笑顔で、そう手を上げた。
「ボタンを……」
小さく聞くあいつ。
「ボタンを私に下さい」
俺は、残しておいた、学ランの胸のボタンを外し、手渡した。
「大事にしろよ。お互いにこれからも頑張ろうな」
また、遠くで友達が呼んでいる。
「じゃ、マジ、俺、いくわ」
泣きそうな、あいつを残すのは心苦しいが、気持ちには応えられない、自分に嘘はつけない。
楽しかった、放課後。
素敵な時間をありがとう。
早く、良い相手を見つけろよ……
気が付かれないように、振り向くと、俺のボタンが宙に浮いていた。
それを青空が飲み込んでいたのが、やけに悲しかった……
=fin=