「な…これ、どうしたの?」

気持ちを抑えつけながら穏やかさを保ち、優里に聞いた。

「ん、と…何でも…ないです」

誰を庇うのか、千理にはその時理解出来なかった。

千理は胸の中でぐるぐると回るやるせなさと煮えたぎる想いを初めて覚えた。

今、またここでは事情を聞けそうにない。
ポケットをごそごそ漁り、名刺と鍵を渡した。


「これ、家の鍵。住所、名刺に書いてあるから。学校終わったら家の中で待ってて。
あ、鍵これしか無いから、優里ちゃん来ないと俺は家に入れないから宜しく(笑」


胸中とは反対にカラッとした笑顔を優里に向け、千理は自転車に乗った。