「…なっ…」

その顔はアザをこしらえた優里の顔だった。

正面から感じれば、暗がりの中でも分かる、何か恐れをなした雰囲気。


長い髪の先は少し乱れているし、コートから覗くシャツの襟元までぐしゃぐしゃだ。

膝を抱えて震えた優里は、何かを口にする事など出来そうにない。



千理は優里の手を握って、優里に聞いた。


「お母さんは?ここにいる事は知ってる?」


優里は首を横に振った。


「ん、じゃぁお母さんは家には居るのかな?」


優里の表情が明らかに固まるのが千理にはわかった。


今までとは比較にならないくらいの出来事があったのかもしれない。

千理は断られるのを前提で優里を家に連れて行く事を考えて、申し出た。


「もし…君が嫌じゃなければだけど…家に来て休む?」


困ったような顔をする優里。そんな優里の顔を見たのか、安心させるように言った。

「大丈夫、君の部屋は別に用意するから。だから良かったら…おいで」


その千理の提案に対して、優里は今度こそ首を縦に振ったのだった。