「あの1番奥の人、顔が見えないです~」
「きっとたいしたことないって」
茶色いセーターを着た男性が、こっちを見た瞬間。
私と後輩は、高鳴る鼓動をどうすることもできなかった。
「何、あの顔」
「優しそうなのに、渋くて…… きっと笑った顔もかっこいいんですよね」
笑って欲しいと思った。
笑顔が見てみたいと。
笑顔になった3人を並べて、見比べたい。
「このバッグ、おすすめですよ」
声をかけてみた。
黒いコートの男性に。
声をかけるんじゃなかった。
聞くんじゃなかった。
「そうなんですか。いいですね」
彼の声は……
溶けてしまいそうなくらいに甘かった。
「俺、買い物が苦手で…… 何をあげても喜んでくれると思うんですけどね、悩みますよ」
甘いよ。
初めて会った私にそんな声出してど~すんのよ!!!