だだをこねる少年に、沙成はちろりと一瞥をくれる。
 「だからコーコーセーはやだって言うんだよ。そっちは半日で終わりかもしれないけど、俺は夜までお仕事! クリスマスなんていったら掻き入れ時の一つなんだ。哲平の我がままなんかに付き合ってられないね」
「沙成!」
「大体、誰が〈恋人〉だよ。厚かましい」
ぴしゃりと言い放ち、席を立つと沙成は店に戻り掛けた。
が、何かを思い出したように少年を振り返る。
「哲、もう少ししたら…」
だが、彼はすべてを言い終えることはできなかった。
 哲平は急に椅子を倒す勢いで立ち上がり、一度も沙成を見ようとしないで裏口から飛び出して行ってしまったのだ。
「哲平?!」
慌てて沙成が後を追っても、もう手遅れだった。彼の言うところの高校生は、とっくに西枝家の門を出て行ってしまっていた。
「哲…」
言葉が出てこない。
 「店長?! 哲平君?!」
物音に弾かれたように、店から秀宏が飛び込んでくる。
 哲平が開けっ放しにして行った扉の横で呆然としていた沙成は、その声ではっと我に返った。