想い人に冷たくあしらわれて、哲平はむくれたが、相手にする沙成ではない。
 五つの年の差は痛い。沙成ときたら、哲平のことなどてんで子供扱いなのだ。
 「ほら、哲平君。お客さんがきますから、テーブルにへばりついていないで、奥でお茶でも飲んでて下さい」
「秀宏(ひでひろ)~。甘やかすんじゃない、その馬鹿をっ」
「馬鹿じゃないよっ。沙成のいけず!」
「あー、もー、店長! ケンカなら奥でやって下さいよ。接客は私がしますから」
沙成が答えるより早く、哲平の大きな手が細い手首を捕まえた。
「秀宏さん、ありがとっ。沙成貰ってくね!」
「静かにしてて下さいよ」
〈どちらの肩も持たない〉と言うのは絶対嘘だと思う西枝沙成、二十三才だった。


 結局哲平の思惑にはまって、沙成は二人で控え室のテーブルを挟むはめになってしまう。
 「俺は凄く不本意なんだけど」
「そ? 俺は嬉しいけどな。沙成と居られて」
初対面で告白してからというもの、哲平は沙成に対して気持ちを繕う事は一度としてなかった。