「ちょっと、どうしたの、沙成? その疲れ様は!?」
「オーバーだな。…昨日今日と、繁盛しすぎてダウンしてるだけだよ。それより、何の用だった?」
 美大時代から既にその才能を認められていた杉本美幸と沙成とは、学生時代からの友人である。美大の同期生と言うととかく相手をライバル視しがちだが、元々専攻が異なっている事もあり、二人は初対面から不思議と馬が合った。
 杉本幸はその才能のみならず、〈美人〉と言うことでも有名だった。華やかさはないが、整った正統派の顔立ちをしている。また、実家が茶道の家元をやっている関係か、今時珍しく和装の似合う青年である。ただし今日は品のいい若草色のセーターと薄茶色のロングコートといったいでたちだが。
 コートのボタンを外しながら、幸は大きな瞳をしばたかせる。
 「何の用…って、君ねぇ。俺に絵を注文したの、忘れ去ってない?」
「…忘れてた」
「贈物だって言うから人が必死に描いたのに、頼んだ人間がこれじゃぁね」