そう言ったが、何故だろう。

心の中では止めないで欲しいと思う自分がいる。

男らしいとは言えない、でも、頼りになる彼の手。

何か悔しく思い無理矢理集中しようと目を本に向ける。

「海里」

今、彼に名前を呼ばれるのは辛い。

何故なら、抵抗なんて出来ないから。

ゆっくりと彼の方に顔を向けると彼は悪戯な笑みを浮かべていた。

「本当は気持ちいいんだろ?」

まるで、最初から知っていたかのように、いや、知っていたのだ、彼はくつくつと笑った。

こんな時の彼には逆らえない。

だから、正直者になるのだ。

目を閉じ、自ら彼の手の甲に頬を寄せもっと撫でて欲しいと訴える。

「猫みたいだな」

「深(シン)が主人なら嫌だなぁ」

「失礼な。なんでだよ」

不服そうに顔を歪め尋ねる深に海里は目を開けて笑った。

「あたしは深の恋人のままがいい」

深は目を見開き驚いたが直ぐに悪戯な笑みを浮かべ、海里から本を取り上げ、顔を両手で包み込んだ。

「可愛いこと言うね。じゃあ、このまま恋人同士だけがする事しないか?」