あゆむ「・・・」

開けられたドアの向こう。
真っ白な部屋。

窓には薄い緑のカーテンがかかっている。
テーブルと窓のそばには花がある。
小さな本棚には何冊かの小説らしきものが並べられているが、
他には何もなく、テレビすらもなかった。

外界とは違う空間。
『独りぼっち』

僕の脳裏に浮かんだのは、そんな言葉だった。

その空間に置かれている白いベッド。
そこに彼女はいた。

あゆむ「・・・」

ただただ静かに眠っている。
小さな呼吸音が聞こえなければ、
生きているのか死んでいるのかさえわからないほどだ。

楓「優しい寝顔でしょう?」

あゆむ「・・・」

楓「昨日ね? 病院に戻ってくる時、ずっと嬉しそうにしていたんだよ?」

あゆむ「え?」

楓「それで夜も明日香先輩と、君のことやコンサートのことを話していて寝不足だったんだよね」

あゆむ「・・・」

楓「やっぱり、美緒ちゃんには君が必要なんだよね」

あゆむ「僕に・・・何ができるでしょうか」

美緒の寝顔を見ながら、思ったことを楓さんに尋ねた。

楓「そうねぇ・・・」

楓さんはしばらく考えた。

楓「私にはわからないな」

あゆむ「・・・」

楓「でも、そのままの君でいてくれることが、美緒ちゃんには大切なことなんじゃないかな」

あゆむ「今のままの僕・・・」

楓「私たちは看護師だけど・・・美緒ちゃんにできることには限界があるわ」

あゆむ「・・・」

楓「でも、君は違うよね? 君は私にはできないことができるの」

あゆむ「・・・」

楓「今はまだわからないかもしれないけど、彼女のために何かをしようと思うんじゃなくて、彼女と一緒に考えてほしいの」

あゆむ「僕が・・・美緒と?」

楓「夏希先輩もきっとそう思っているんじゃないかな」