鴉が夥しい躯に群がって、死肉を啄ばんでいた。

周囲の田野には死臭が漂っている。戦があったのは

五日前のことで、河内守護畠山義堯が、木沢長政の

占拠している飯盛山城(大阪府四條畷市)を奪取し

ようと三好元長や三好遠江守、筒井順興などの力を

借りて大軍で攻撃したのだ。

 畠山の守護代木沢は細川晴元に寝返って三好元長

の追い落としを企んでいた。幾重にも包囲されて籠

城を余儀なくされた木沢は、管領晴元に援軍を要請

した。しかし、家臣団の離反甚だしい細川管領家に

木沢救援に差し向けるだけの兵力はなかった。

 崖淵に立たされた晴元が思案の末に思いついたこ

とは本願寺の兵力を利用することであった。敵対す

る三好元長は、法華宗の大檀那で、堺や和泉地方で

日蓮宗徒と結びついて本願寺の寺領を荒らし廻り、

真宗門徒を弾圧していた。

 十八歳の晴元は迅速に行動を起こした。舅の内大

臣三条公頼を関白二条尹房のもとへ遣り、九条家の

猶子になている証如との会見の場を公式に設定させた。

 会見の場にやって来た権門志向の証如と後見人蓮

淳の耳元で晴元は囁(ささや)く。

「元長が勝つようなことがあれば、奴を大檀那とす

る法華宗徒は嵩にかかって本願寺を潰そうと動くは

必定、そうなれば本願寺の法灯は危うい。管領家は

本願寺にお味方いたす。共通の敵を葬るために共に

戦おう」